主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1.地理学を世間に
地理学は,時空間に織りなす事象をいかに実証的に分析し,説明するかに挑んできた.これは,学史をひもとけ ば明白であるが,その成果は他学問や世間にはあまり知られていない.すでに経験し反省していることすら,他学問ではいかにも新しいことのように発表され,そちらの方が 通用している例は少なくない.この状況を打破し,地理学の持ち味を生かしてあくまで謙虚に世間に伝えるにはどうしたらよいか?その可能性を鉄道ジオラマに託し、制作ならびに公開の実践を紹介し,さらなる展開を検討したい.
2.四次元で描く地誌の発想
報告者は,自然と人間の関係を地域に展開する時空間 の四次元で描く地誌を提唱し(野中 2006),研究報告に反映させてきた(野中 2008 など).これをいかに分かりや すく効果的な1図で説明する方法として,「高杉さん家の おべんとう」など地理学の発想をモチーフに漫画を描いた 柳原望氏と漫画表現をいかした説明図「地理絵」を提唱し,実践してきた(Nonaka & Yanahara 2007).
いっぽうで,地理的事象は一つのシーンに限定されることなく,時空間的な連続性ももつ.そして人文―自然関係を統合的に表すために三次元的に表現し,そこに物語性をもたせて、 さまざまな複数のシーンでひとつの地域を構成する立体的 なジオラマによる表現を構想した.3.物語をもつ地理ジオラマの実践 この発想で,表1に示す物語とセットの N ゲージ鉄道模 型(1/150 スケール)ジオラマを柳原氏と作ってきた(野中 2020).
実践にあたっては,現実的な制約と,より多く の人びとに伝えるための運搬性を考えて幅 60×奥行 30cm を基本に制作した.鉄道模型界ではミニサイズとされる 90×60cm サイズの1/3に過ぎない.走行車両は限定されるが,情景に不自然にならないように高低差をとって路線延長を長くとることにより,数多くのシーンをいれる空間 をとることができる.鉄道にこだわる理由は,動くことにより,時空間の想像を促し,その動きと線路によ る動線のさまざまなシーンを作ることができる利点ゆえである.さらに見る人が自身を列車の乗客に投影することに より,その物語を追体験できることも利点の一つである.
4.俯瞰と等身大でつなぐマルチスケールの地理学
ただし,追体験するには,俯瞰で見る目から人が地に 足つけて見る目が必要である.ここに地理学だからこその哲学と方法がある.それを再確認することを鉄道ジオラマ への憧憬・活用と制作・展示の実践から提起したい.以下にその検討課題を示す.
1 時空間的な連続性をもつ地理的事象の模型化
2 自然環境と人間活動の統合
3 三次元の(立体的)取り扱いプラス四次元の(歴史的)取り扱い
4 俯瞰(縮小)と等身大(原寸)をあわせもつ視点(マルチスケール)の投入 5 人間活動を盛る上で対象に対する視点(主体)を明確にするための物語性の付加
6 伝える工夫と展示する場のセッティング
7 実物・実景に対する模型化の寛容さ