日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P067
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淡路島の水環境に関する水文地理学的研究(2)
*小永吉 温志小寺 浩二
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抄録

Ⅰ はじめに

 国土交通省は、日本を構成する14,125の全島嶼のうち、本州・北海道・四国・九州・沖縄本島を除いた島々を“離島”と定義している。瀬戸内海東端に位置する淡路島は、そのなかで最も人口の多い離島でありながら(人口約12.7万人)、水環境についての調査報告や学術的研究が極めて少ない。行政実施の「公共用水域水質調査」結果からは、近年島内の河川汚濁が改善され、比較的安定して推移しているように見受けられるが(図1)、調査地点に偏りがあるだけでなく、海塩の影響を受けているとみられる地点も存在する。下水道・汚水処理人口普及率についても、島嶼地域としては高水準であるが、兵庫県内では相対的に低いことから、本研究では島全域の陸水環境において水質を明らかにすることを目的とする。

Ⅱ 研究方法

 淡路島の水文誌をQGISで整理し、2・5/6・8・11月に河川85~105地点で観測・採水を実施した。現地での測定項目は、AT・WT、EC、pH・RpH(比色法)、COD・PO43--P・NH4+-N・NO3--N・NO2--N(パックテスト)である。また、8月には湧水5ヶ所、10・11月にはダム湖表層水13ヶ所でも採水し、ECとpH・RpHを測定した。採水サンプルはメンブランフィルター(孔径0.2µm/φ25mm)で濾過し、研究室でTOCを測定した後、イオンクロマトグラフによる主要溶存成分の分析を行っている。

Ⅲ 結果・考察

 河川水のEC値は概ね100~450µS/cmであった。諭鶴羽山麓に点在する各ダム湖の表層水は80~130μS/cmであり、流下とともに上昇する一方、北部の小規模な灌漑用ダムの表層水は200~250μS/cm程度である。PO43--Pは全体的にも夏季に明らかな上昇がみられ、洲本川・三原川水系の平野部において顕著であった。淡路島の農業は、水稲・タマネギの二毛作(さらにレタスなどの葉物野菜を加える場合もある)に畜産の堆肥を組み合わせた資源循環型の農業システムであるが、JA淡路日の出資料(稲作栽培ごよみ)によれば、夏季に栽培される水稲の施肥総成分量のNPK比は全ての品種でリンが高く、灌漑排水によりPO43--P値が上昇していると推察される。一方で、NO3--Nの月別の度数分布では夏季に低くなる地点が多く、水田の灌漑水中において脱窒作用が生じていると考えられるが、反対に夏に上昇する地点も見られた。三原川水系には本流並の流域面積を持つ支流が複数あり、平野部から河口付近で合流を繰り返すが、水質には異なる傾向がみられ、田の土地利用の割合が多い(土地利用細分メッシュによる)山路川・馬乗捨川で汚濁負荷が高まる。また、倭文川では河口堰の影響でCOD・PO43--P・TOCが高く、pHも年間を通して8.0以上であるため、湛水区域で炭酸同化作用が強く働いているとみられる。上流側に畜産施設が多い洲本川水系の樋戸野川では、COD・PO43--P・NH4+-N・NO3--N・NO2--N値が高く、変動係数も小さいことから、年間を通して負荷が大きい。下水道整備計画外の鳥飼川水系などでもCOD・TOCの高い地点がみられるが、観測値は月ごとにばらつきがある。小規模な河川では、下田川・角川でCOD・TOCと前者はWT・pH、後者はNH4+-Nが高く、排水等の影響が強いと推察される。島北東部の灘川では、国立明石海峡公園内で浄水センターの再生水を利用しており、PO43--P・NO3--Nの値が比較的高い。諭鶴羽山地南部の灘地区を流れる河川水は、EC値が350~500µS/cmと高くなる地点が多く、中央構造線沿いの油谷断層付近で地質的影響を受けていると考えられる。また、付近の水道水のECについても同様に、他地域と比べて高い値を示した。湧水のEC値は、阪神・淡路大震災前に測定された波毛ほか(1994)のデータよりも全体的に高く、示現水で400µS/ cm程度、大師の水で500µS/cm超に達する。また、広田の寒泉ではpH(6.2)とRpH(7.5)の差分が特に大きく、地下水の影響が強いことが示唆された。

Ⅳ おわりに

 年4回の現地調査により、淡路島の水環境(主に河川水質について)を大まかに把握することができた。2025年は定点調査を毎月行いながら、季節変化や土地利用との関係を定量的に示し、主要溶存成分の分析結果と共に明らかにしたい。

参考文献

波毛康宏・西村良司(1994):名水を訪ねて(27) 淡路島の名水.地下水学会誌,36-4,pp487-492

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