日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 312
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地方都市進学校における地域課題を題材とした教育活動
三重県立津高等学校での実践の事例
*森下 航平西村 訓弘
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抄録

Ⅰ.目的 地域社会を題材としたり,地域社会と連携したりして実施する体験学習や課題解決学習は,日本では就学前教育から初等・中等・高等教育まで広く行われている.高校においては,「高校魅力化」の取り組みが話題となっているように,農山村地域や島嶼部などの課題解決に資する実践として広く取り組まれてきた.これら実践は地域社会の発展や地域の将来を担う人材育成を担うものとして取り組まれるとともに,体験的で実践的な活動や,学校外の人や環境との関わりを通して,児童・生徒ら自身の発達や成長を促す教育活動としても認識されてきた.本発表では地方都市の進学校である三重県立津高等学校(以下「津高校」とする)が実践する,希望者対象の課題活動の事例を検討する.地域課題を題材とした課題研究活動は農山村地域や島嶼部などといった地域での取り組みが比較的知られているが,本事例を通して地方都市進学校で実現可能な実施内容や教育的可能性,社会的意義について検討する. Ⅱ.方法 本発表内容は,2022年度から2024年度にかけて津高校およびオンラインで実施した,参与観察およびアンケート調査に基づく.津高校は1880年に創設された旧制中学校を前身としており,三重県の県庁所在地に位置する公立進学校として知られている.生徒は津市居住者だけでなく近隣市町からの通学者も多く,遠方市町からは津市内に下宿し通学する生徒も存在する.卒業後は進学する者が多いが,県外へ進学したり,また進学後には県外で就職したりする者も少なくない.Ⅲ.結果と考察 津高校では,2011年度より「津高キャリアプロジェクト」という名称のプログラムを行っている.これは放課後に実施される課外活動であり,希望生徒が参加できる.三重県内外で地域創生に関する政策立案や実務に携わった経験がある大学教員が活動をコーディネートし,生徒らは地域課題に関する講義の受講と,地域課題解決方法に関するグループでのプラン立案とプレゼンを行う.プレゼンは計三回実施し,生徒らは受講生や教員から質問や助言を得て発表内容をブラッシュアップしてゆく.年度ごとに与えられるテーマに応じて生徒らは自ら課題を設定するが,そのテーマは津高校が立地する津市内の問題だけでなく三重県内の課題から広く選ぶことができる年度が少なくない.受講生らへのアンケート調査の結果,生徒らは地域の課題や活性化に対する関心が向上している.出身地や現在の居住地,活動で取り上げた地域で将来居住したり働いたりしたいという思いが強くなった生徒もいるが,そうでない生徒も一定数見られる.一方受講生らはプラン立案や発表内容に関するディスカッションを通して,学問への興味関心や課題解決能力,論理的思考力が向上したと回答している.チームメンバーとのコミュニケーションの重要性や,多角的な視点を取り入れる必要性,企画立案に必要な思考力や一貫的な論理性,積極的に未来を構想していくことの面白さなどを学んだとの回答があった.生徒らは地元の魅力や課題に関する学びだけでなく,将来のキャリアや人生において生かされうる技能や教訓を得ている.

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