日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P046
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保育者における季節感を育む活動の関心に関わる経験時期の特徴
広大な自然を擁する大学附設園舎を対象として
髙橋 真穂澤田 康徳*川島 朋佳
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抄録

目的:季節感の涵養は生涯学習として重要であり,人間形成の基礎を培う幼児期から季節感を育むことをねらい,散歩活動などの体験活動が行われている.しかしながら,季節感に関わる発達段階上の経験時期は,概念的に議論されることが多く必ずしも明確ではない.幼児期からの多様な経験は,幼児期に季節感を育む直接的役割を担う保育者においても,意識に関わることが想定される.さらに,近年では森の幼稚園のように豊かな自然を擁する園舎の先進的活動が着目されている.本研究では,広大な自然を擁する大学構内に附設する園舎の保育者にアンケートを行い,季節感を育む活動支援に関して,支援の充実と密接な関心に関わる経験時期の特徴を明らかにする.さらに,広大な自然環境を擁する場における,季節感を育む散歩活動場所およびその観点を把握する.

方法:東京学芸大学構内(小金井)に附設する園舎(幼稚園,保育園)の保育者(23名)を対象に,アンケートを行った(2024年7月中旬).質問内容は,①保育歴,②季節感を育む関心に関わる経験時期(幼児~保育者時期),③季節感を育む上で大切な要素(気候要素,生物などに関する要素),④季節感を育む散歩ルート設定に関わる情報源,および⑤散歩活動場所などである.回答は,①~④は程度の5段階評価(5点(そう思う)~1点(そう思わない)),⑤は季節感を育む散歩活動場所(網域)を地図に記入する方法で,その理由を自由記述で得た.②の得点に対し,Ward法(ユーグリッド平方距離)によりクラスター分析した.また,⑤の自由記述の語に対し,KH Coderを用いた多次元尺度構成法結果から場所の観点をカテゴリ化した.その際,Ward法(ユーグリッド距離)のクラスター分析結果を補助とした.

結果:季節感を育む活動の関心に関わる経験時期の程度に基づき,クラスター分析により保育者を4つの経験群に類型化した.関わる経験時期が多い経験群は,高等教育,実習や研修,保育上の経験など主に保育者時期(I)や幼少時期以降の全過程(II)の経験が関わる経験群,経験時期が少ない経験群は,主に幼少時期(III)や幼少時期と高等教育時期や保育上の経験(IV)などが関わる経験群である(図1-a).いずれの経験群も,全保育者において季節を育む活動の関心の程度は高い(4点以上).また,保育年数は,関心に関わる経験時期が全過程(II)および幼少時期と高等教育時期や保育上の経験(IV)の複数の学齢や保育上の経験にわたる経験群で長く,関心に関わる経験時期が保育者時期(I)および幼少時期(III)の幼少~保育者時期のいずれかに寄った経験群で短い傾向を示す(図1-b).散歩ルートの設定に関わる情報源は,いずれの経験群も天気予報や担当学年といった現況,保育上の経験や同僚との会話を活用し,関心に関わる経験時期が多い経験群(II,I)で情報源も多い.関心に関わる経験時期が幼少~保育者時期のいずれかに寄った経験群(I,III)は,保育実習のほか,経験時期と対応した大学の経験(I)や幼少期の経験(III)も活用している(図2).カテゴリ化した散歩活動場所の観点(図3-a)の語の頻度は,平均的に五感を育む全体的観点(i)が最も高く,フェノロジーを含む観点(ii,viii),場(iv)や秋の採集活動(vi),生き物(iii),夏季の多様性(v)農的体験(vii)の順で低くなる.観点別の語の頻度は,関心に関わる経験時期が多い経験群(II,I)で全体的に高い.経験時期が複数にわたる経験群では,全体的観点やフェノロジーを含む観点(II),全体的観点は多くなく相対的に秋の採集活動や情緒を育む観点(IV)の具体的観点の語の頻度が高い.経験時期が幼少~保育者時期のいずれかに寄った経験群では,全体的観点の頻度が高い場合(I)やいずれの観点も頻度が低い(III)場合がある(図3-b).このように,季節感の涵養の起点に直接的支援を担う保育者には,高い関心に関わる経験時期により,保育歴,散歩活動の情報活用や場所の観点に差異が認められた.高い関心に,保育上の経験が関わる場合が認められたことは,関心に関するリスキングの可能性を示していよう.さらに,散歩活動には,現況とともに同僚との会話が情報源として活用され,したがって,附設園舎における季節感を育む支援の充実に,関心の経緯を踏まえた意識や情報共有の保育者間連携や研修の有用性を本研究結果は示している.

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