Ⅰ はじめに
佐賀平野は干拓により作られた平野で市街地、郊外に関係なくクリークが網目状に発達している。農業用水の確保と低平地により有明海への排水が困難であったため、用水路かつ貯水池、排水路としてクリークは発達した。これまで、大串和起ほか(2006)では佐賀平野西部(白石平野)の、水田一枝(2003)や濱田康治ほか(2008)では有明海沿岸クリークの水質調査が実施された。これらの研究から20年前後が経過し、その間に導水路の整備、都市化の進行など環境も大きく変化しており、佐賀平野の河川、クリーク(幹線、集落内)の水質調査を実施し、現在における佐賀平野の水環境の特徴を考察する。
Ⅱ 対象地域
佐賀平野(筑後川の下流域に広がる筑紫平野の内、筑後川より西から塩田川までの地域)を広範に対象地域とし、筑後川、嘉瀬川、六角川の各水系の主な河川、幹線クリーク(国営や県営等の主要水路)、集落内クリークを調査対象とした。
Ⅲ 研究方法
2024年6月から11月まで毎月調査を実施した。現地では気温、水温、電気伝導度(EC)、COD、pH及びRpH、溶存酸素量(DO)、透視度を測定し採水した。自宅では濁度、アンモニウム、亜硝酸、全窒素、全リンを測定した。研究室ではTOCおよびイオンクロマトグラフを使用して主要溶存成分の分析を行い、調査結果に基づきGIS等を用いて空間分布や時間変動の特徴を確認した。
Ⅳ 結果・考察
主項目(EC、COD、TOC)の中央値で空間分布図を作成し確認した(図1)。佐賀平野西部地域(白石平野)で幹線Cr、集落内Cr、河川ともにEC、COD、TOCが高い。特にSR1は幹線Crであるにも関わらず3項目とも高く、農業用水としての課題を示唆している。佐賀平野中部地域及び東部地域は上流部の河川で測定値は低く下流部で高くなる。河口に近い地点では河口堰の開閉により潮の影響を受けECの変動は激しい。幹線Crと集落内Crの比較ではSR1のように極端な地点を除けば、CODでは大きな差は見られないがECでは集落内Crがやや高く汚濁傾向にあると言える。全体的な傾向としては中部地域、東部地域、西部地域の順に汚濁が進んでいると言える。
アンモニウムイオン、亜硝酸イオンは平均値(2024年9月~11月)で空間分布図を作成し確認した(図2)。主項目で汚濁が進んでいた西部地域は中部、東部に比べ低い傾向にあり、都市排水の流入は少ないことが窺える。クリークではアンモニウム、亜硝酸ともに低い傾向があるが幹線CrのSA11はいずれも高く、追加調査により要因を明らかにしたい。
Ⅴ おわりに
先行研究においても佐賀平野西部地域の水質汚濁が問題であった。以前に比べ数値改善はなされているが、本研究においても他地域に比べ数値が高く、依然として佐賀平野西部地域の水環境に課題があることが示唆された。
参 考 文 献
大串和紀,弓削こずえ,中野芳輔(2007):白石平野の水事情とクリーク水質についての考察.九州大学大学院農学研究院学芸雑誌,62-1,p69-81