日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S804
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都市の交通とモビリティの地理学研究に向けて
*田中 健作
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キーワード: 都市, 交通, モビリティ, 地理学
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抄録

1.都市における移動手段の多様化・統合とモビリティ

 現代の都市の整備目標として,人が生活を豊かにするための活動へのアクセスの確保があげられる。そこでは,アクセシビリティとともに,徒歩や自転車,その移動を支援する公共交通等を組み合わせた「モビリティ」(本報告では,フィジカルな空間の移動のしやすさとする)の向上も問題となる。移動やモビリティは,環境負荷の軽減,レジリエンス,インクルーシブ,健康といった都市整備のキーワードとも結びつくものである。

 日本では,情報通信技術の発展や規制緩和により,自動車や電動自転車等のシェアリングサービス自動車や電動自転車等が出現し,移動手段は多様化・細分化してきた。さらに,公共交通やシェアリングサービスといった「モビリティサービス」は,IoTやAIなどの新技術と結びつき,MaaSによってその利用アクセスが統合されるようになった。サイバー空間とフィジカル空間の融合が進展している。今日のモビリティは,個人の身体能力や所得,交通施設(交通用具を含む)の利用可能性だけでなく,サイバー空間の利用能力(アプリケーションへのアクセスなど,サイバー空間の移動のしやすさといえる)も加味する必要があろう。

 人間の基本的な移動手段である徒歩(車いす移動を含む)や自転車の利用を促すためのウォーカブルな道路への関心も高まっている。交通モードの細分化や分節化に対応するためには,シームレスな移動空間をつくり出すユニバーサルな交通結節点の整備も要となる。これら道路や交通結節点は,人々の過ごす「場」ともされる。歩行中や交通機関利用時も含め,移動経路自体も価値あるものとなっている。

 本報告では,こうした日本の(面としての)都市における移動手段の多様化・統合を踏まえつつ,都市における交通とモビリティに関わる地理学研究の可能性を検討したい。

2.都市の交通とモビリティの地理学研究に向けて

 交通現象は地域の成り立ちと不可分の関係にある。交通地理学はこの点を意識してきた研究領域である。この点をより明確に示したものとして,都市地理学と交通地理学の境界部分に位置する都市交通地理学の概念的枠組み(小長谷,1990)が挙げられる。この枠組みは全体として都市構造と交通現象に関する「輸送」および「移動・行動(交通流動)」のとの関係が明確に示されている。時間的スキームと都市環境と関連した,交通様式,交通施設,都市構造,交通流動とその相互連結関係によって構成されている。この枠組みは記述あるいは計量といった研究手法の違いをこえて,「輸送」も「移動」も重要である現代の都市における交通現象を捉える道筋を与えている。都市構造と不可分の関係にある都市の交通問題もこの枠組みに関連付けることができるだろう。

 この枠組みからは,モビリティと直結する「輸送」「移動行動」「障害」,「輸送」や「移動行動」に作用する交通施設・サービスの整備と関わる「政治」「行政」,都市構造に関わる「都市」「都市機能」の研究(者)の学界内の連携可能性が見出される。さらには,モビリティに関する研究課題も見出される。例えば,都市環境と移動者との相互作用である,移動者の「経験としての移動行動とその認知」や(特に高齢者や子育て世帯,障害者,貧困層の)「生活交通問題」と「モビリティ」の関係である。これらは,「交通様式・交通施設・都市構造・交通流動」の一体的な検討を要請する。こうした研究の遂行は,都市内の機能的結合のプロセスや都市における人々の生活の質や幸福度,すなわち都市の姿の理解を深める可能性をもっていると考えられる。

【参考文献】小長谷一之(1990):都市交通地理学の研究動向-都市構造と交通流動との関係を中心として-,人文地理42(1), 25-49.

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