2024 年 65 巻 1 号 p. 2-28
バチカンと中国は2000年代に入ってから,外交関係樹立へ向けた協議を非公式に,断続的に続けてきた。その間には,2018年に両国間で合意したとされる,中国国内でのカトリック教会の活動に関する「暫定合意」に象徴されるように,進展の動きもみられた。だが,現実には両国間の外交関係樹立は実現していない。その背景には,カトリック教会およびローマ教皇庁と一体の存在としての前者と,無神論的価値観に基づく宗教政策を推進している後者のあいだでの,宗教の位置づけをめぐる認識の相違が影響を及ぼしている。加えて,習近平指導部が掲げる「宗教の中国化」も,この問題をより複雑なものとしている。このような状況のもと,バチカンによる対中政策は,「カテキズム」の内容に象徴される,カトリック教会の宗教的規範とそれに基づく伝統を「原則」とした上で,それらと合致する範囲での「一致」の実現を模索することを軸として,展開されている。