麗江の土司であった木氏の「木氏歴代宗譜」(1842年建立)が現存している。この系譜で注目すべきは、木氏四十一代の系譜の前に、漢字の音仮名や訓読みによるナシ語表記によって、ナシ族の天地開闢以来の神話的系譜が刻されていることである。つまり、木氏四十一代の系譜は、天地開闢以来の神話的系譜と結びつけられているということだ。こうした系譜のありようは、古代日本の天皇家(ひいては現在の天皇家)の系譜の形式と類似する。そして、神話的系譜と歴代系譜が結びつけられる系譜は、中国の古譜にも宗譜にもない独特なものである。
本稿では、神話的系譜と歴代祖先の系譜が結びついていることの意義について、ナシ族とモソ人(ナシ族東部方言話者)の民間系譜を参照としながら考察を加え、そこに彼らの世界観を見出す。