タイ王国北部にはソー(so)という掛け合い歌の職能芸能があり、現在も歌師たちは仏教儀礼や冠婚葬祭に招かれて芸を披露している。本稿はソー芸能がどのような試行錯誤によって現在まで職能芸能として継承されてきたのか、チェンマイ県ビーソー伝承協会発足の前後の芸能実践に着目し、生じた変化の特徴を考察した。協会発足以前のソー芸能はグループごとに歌師らの囲い込みが起きており、相互の交流や連携が停滞し、また従来の徒弟制度の伝承形態も崩壊していた。この問題を解決するために、伝承協会は師の精霊を合同で祭祀するコミュニティを組織化して歌師たちの交流を促進した。合同儀礼の実施は副次的に伝承の場として機能した。歌師たちは相互連携を深め、徒弟制度の種々の慣例を変え、文字テクストや複製メディアを利用して歌詞を共有化し、芸能実践の革新に成功した。