ミャオ族と漢族が暮らす中国貴州省東南部清水江流域にある調査村(S村)において、筆者は「(漢族から)ミャオ族になった」、「(ミャオ族から)漢族になった」という語りを耳にした。はたして「ミャオ族になる」「漢族になる」とはどういった事態を指し、なぜ彼らは「民族」を変更することを選択したのだろうか。本稿では、2009年3月から2011年5月までに貴州省黔東南ミャオ族・トン族自治州施秉県南部で実施した調査をもとにこれらの点を考察した。
結論では、「ミャオ族になる」「漢族になる」という営みには、単に言語や身なり、生活様式の変更にはとどまらない内実があることを指摘した。具体的には、変更した民族の婚姻ネットワークに参入することで次世代の配偶者を確保したり、儀礼のやり方を変えることでそこに参加する人々を確保していたのである。