日本補綴歯科学会誌
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◆企画:第128 回学術大会/研究教育セミナー 「歯科補綴学研究の出口戦略」
「産学連携研究の一例」 出口からシーズを考えてみた
二川 浩樹田地 豪
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2020 年 12 巻 2 号 p. 111-119

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抄録

 義歯の汚れ,デンチャープラークは義歯表面に形成される微生物バイオフィルムで,その形成には,①口腔内の微生物同士の相互作用,②修復物などの成分や表面の性質,③生体成分の3者の相互作用がかかわっている.歯科補綴学教室でこのような微生物の研究をする一方,臨床では,障がい者施設で治療に携わっていた.先天的な障がいのある患者の場合,治療してもセルフコントロールが出来ないため口腔内状態は悪化していった.このような患者のためにバイオフィルムの形成に関わる因子を利用して,逆にバイオフィルムの制御を行うことを考え,その結果,産学連携研究として発展することができた.その研究の一端をご紹介できればと考えている.

 ①菌の利用 口腔内にはオーラルフローラと呼ばれる常在微生物叢が存在している.腸内細菌叢と同様に,その中に乳酸菌を含んでいるため,プロバイオティクスを口腔に応用する研究を行ってきた.特に,ミュータンス菌,歯周病菌,カンジダ菌に対して高い抗菌性を示すラクトバチルス・ラムノーザス(L8020乳酸菌)を用いた研究について紹介する.

 ②材料表面の利用 歯の表面やインプラントなどに抗菌性を付加できるようにするため,手指・粘膜などの消毒に用いられる消毒薬とシラン系の固定化部分を持つ固定化ができる抗菌剤Etak を合成した.このEtakは,吹き付けたり浸漬するだけで,今まで抗菌性を持っていなかったものを簡単に抗菌加工できるというものである.このEtakには抗ウイルス効果もあり,現在は,色々な用途で活用されている.

 障がい者の口腔ケアのためにスタートした研究であるが,超高齢社会の中で口腔の健康のためにL8020やEtakなどが活用されると嬉しいと考えている.

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