抄録
目的:本研究では,摩擦感テスターを用いて,“すべりやすさ”,“ざらつき感”といった義歯床用材料への表面摩擦感の主観的な官能評価を客観的なデータとして定量化することを試みた.
方法:試料は加熱重合型アクリルレジン,コバルトクロム合金,弾性熱可塑性樹脂の3 種類とし,メーカー指定どおり短冊状(70×10×3 mm)に製作した.表面摩擦感の測定は摩擦係数を利用した摩擦感テスターによる客観的評価と,Visual Analogue Scale(VAS)アンケートによる主観的評価を行った.これらは乾燥条件と湿潤条件の2条件で測定した.また,各試料の表面粗さの測定および観察も行った.得られたデータは分散分析後,Tukeyの多重比較検定(α=0.05)を行った.また,摩擦感テスターと表面粗さとの相関を検討するため,Pearsonの積率相関係数を算出した.
結果:摩擦感テスターによる客観的評価では,乾燥条件下では,弾性熱可塑性樹脂の“すべりやすさ”を示すMIU 値,“ざらつき感”を示すMMD 値は他の2 種と比較して低い値を示した.また,すべての試料でMIU値とMMD値は湿潤条件のほうが乾燥条件に比較して低い値を示した.主観的評価においても同様の傾向を示した.また,表面粗さとの相関により,摩擦感テスターがヒトの感覚と同様に多数の因子によって表面摩擦感を測定していることが示唆された.
結論:歯科材料の表面摩擦感という主観的な感覚が,摩擦感テスターによって客観的に評価できる可能性が示唆された.