抄録
国立環境研究所では,定期航路を航走するフェリーを使って海水を常時サンプリングし,
収集した海水に含まれる栄養塩やプランクトン等を調べることにより,海洋健康度をモニター
してきた。しかしながら,航走する船体から取水されたサンプル水が,本来海洋のどの深さ
に存在していたかを知ることは,データを詳細に解析し解釈を加える上で重要な要素の一つ
である。これを明らかにするため,海上技術安全研究所において,模型船による実験を行い,
船体取水口から取水されるサンプル水の上流起源を実験的に調べた。また,
CFD(ComputationalFluidDynamics)による数値シミュレーションを行い,サンプル水
の上流起源を数値解析によって推定した。これと実験結果を比較したところ,両者でよい一
致が得られた。得られた結果によれば,今回用いた船型(練習船)の場合,S.S.2-1/4,船底
より喫水の52%の位置に取り付けた取水口に流入する流体は,ほぼ水面から喫水の
13%の深さ付近に存在していることがわかった。
ただし,この結果は模型船の尺度であり,実際の船の場合に当てはまるとは即断できない。
そこで,CFDにより実船尺度を用いた数値シミュレーションを行った。その結果,深さ方
向の上流位置はほとんど変化しないものの,船に対して,幅方向の位置は実船の方が,模型
船の結果に比較して約半分の近さになることがわかった。
国立環境研究所によるモニター結果では,水面付近に生息すると考えられている微生物が,
喫水中央付近に取り付けられた取水口から採取された経験があり,今回の結果は,その妥当
性を裏付けるものである。この意味で今回の研究成果は学際的に意義あるものと考えられる。