The Journal of Antibiotics, Series B
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Oxytetracyclineの鶏胎仔に及ぼす諸影響に関する研究
北村 智治
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1959 年 12 巻 2 号 p. 41-61

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抄録

Oxytetracycline (以下, OTCと略記) は, 1950年米国Chas. Pfizer社の研究室でFINLAY等1) によつて発見されたStreptomyces rimosusのつくる抗生物質で, Chlortetracycline, TetracyclineおよびChloramphenicolと共に広域性抗生剤として広く臨床的に使用されており, 基礎的ならびに臨床的研究の報告も数多くなされている。塩酸OTCの水に対する溶解度はpHによつて甚だしく異なり, 23℃において, pH1.2では31.4mcg/mlが溶け, pHが上昇するにつれ減じてpH5.0では0.5mcg/mlとなり, アルカリ側では再び増加してpH9.0では8.6mcg/ml溶解する。アルコール, プロピレングリコールには水と同等またはそれ以上に溶解する。
塩酸OTCは, 乾燥状態では室温に長期貯蔵して力価の低下を示さず, 50℃で4ヵ月間貯蔵しても不活性化は5%以下であり, 水溶液はpH1.0~2.5では5℃または25℃に30日間おいて力価の低下なく, pH3.0~9.0では5℃に1ヵ月間保存して力価が低下しないことがみとめられている2)。
塩酸OTCの毒性は極めて低く, マウスに対する毒性はPAN等3) によると, 静注LD0103mg/kg, LD50192mglkgで, 静注:皮下:経口投与時のマウスのLD50の比は1:4.6:37.6となつているが, 犬の経口投与では毎日75~465mg/kg, 8週間の連続投与で特記すべき副作用がなく, 50~100mg/kg, 30~90日間の筋注も影響がないことが報告されている。またSCHOENBACH4) によると, マウスのLD50は静注で175mg/kg, 皮下は600mg/kgで, ラッテは200mg/kg 2週間の皮下注射で腎障碍ならびにその他の副作用はなかつたが, 体重は26%減少し, 尿の比重は正常時の2~6倍上昇し, 上皮内柱が出現している。NELSON等5) は, 犬に250mg/kgを99日間投与し, 末梢血液, 骨髄, 血管壁に及ぼす影響を詳細に検査しているが, なんらの変化もみとめていない。
OTCの人体に対する投与は, 経口, 注射 (筋注, 静注), 外用に分けられるが, 経口投与によつて著明に吸収され, 2~4時間後に血中濃度はpeakに達し, 抗菌性は全身の組織に分布し6), 腹水, 胸水, 乳汁, 胆汁中等へも移行し, 胆汁への移行は血液の6~10倍7), 8), ZASLOW9) は, 犬の実験において, OTC 100mg/kg毎6時間投与で翌日の胆汁のOTC含有量25mcg/ml, 肝機能障碍例では6mcg/mlであることを観察している。健康時の髄液への移行度は血中濃度の1/8~1/36程度であるが, 髄膜炎が存在するときは移行し易くなり, 経口投与によつて胎盤から胎児流血中への移行もみとめられている10), 11)。人間に一般的な内服 (10~40mg/kg程度) を分割投与するときは, 時に食欲不振, 悪心等の副作用を見ることもあるが, その出現率は非常に低く, KUTSCHEN等2) は本剤使用の104,672例について調査し, 肝機能障碍例は皆無であつたことを報告している。本剤の長期投与の可能性および大量を肝障碍時に投与したときの副作用の出現状況については, 各方面から注目されていたが, MILLER等13) は70名の患者にOTC 5.0gまで毎日20日間連続投与し, 神経, 肝, 腎, 血液に特記すべき所見のないことをみとめ, HELM等4) は1.0gまでを毎日38名の患者に30カ月投与して同様の結果を得, COHN等15) は500mgまで毎6時間, 7~21日間の内服, 毎6時間100mgまでの4~9日間筋注した患者の肝臓のbiopsy, 肝機能障碍状況等を詳細に検討しているが, 特記すべき変化をみとめていない。GUILD等16) は, ネフローゼの小児に感染予防の目的で1~5年間にわたつて, 毎日200mgまでのOTCを内服させ, 血液, 腎障碍に及ぼす影響を観察し, DUNBERGER等17) は肝機能障碍のある20例に10日間にわたつて総量, 平均11.4gの内服, 1.9gの筋注, 5.0gの静注をおこない各種の血液凝固因子に対する影響を観察しているが, 著変をみとめなかつたと報告している。一方, 衰弱時 (たとえば癌の末期) におけるOTCの大量投与は, 肝, 腎機能障碍を誘発して急性死をもたらし18), 網内系機能減退を来たし19), Chlortetracyclineの大量動脈注射は腫瘍発育を制止し20), 少量では移植癌の発育を促進することが報告されている21)。また, CRUICKSHANK22) は, 試験管内における皮膚培養で, OTC 0.02mcg/ml含有培地では正常培養が可能であるが, 0.2mcg/ml含有培地では変化を来たし, 1.0mcg/mlでは発育困難であることを述べ, LIEPINE等23) はChloramphenicolやChlortetracyclineに鶏胎組織培養上1.0mcg/mlでは発育阻止作用のあることを観察し, 幼若細胞に対してはTetracycline系製剤の高濃度は, 1種の組織障碍をおこすことを述べている。
OTCには, 以上のような組織障碍作用のある一面, OTCの微量長期投与は鶏, 七面鳥, 豚, 鼠, 犢, 家兎に発育促進的に作用することが明らかにされ, 飼料1.0kgに就き10~20mg程度のOTCでこの作用が現われるとされているが24), 本邦においても日比谷25), 26) は孵化直後の白色レグホンをOTC 15mg/kg含有の飼料によつて40日間飼育し, 発育促進作用に関する基礎的な研究をおこない, その本態には不明の点があるが, 重量は増加し, 睾丸は体重に比較して大きく, 性腺刺戟作用のあることをみとめている。昭和医大薬理学教室においては, 角尾教授指導の下に, 各種薬物の鶏胎仔に及ぼす影響についての多数の詳細な研究がおこなわれ, それらの成績は各方面に報告されているが, 抗生物質の鶏胎仔に及ぼす研究としては, 現在までのところ, 東郷27) のStreptomycinを使用しての鶏胎仔の発育, 肝, 腎の病理組織学的検査ならびに尿嚢水への排泄量の検討, 竹内28) による同剤の鶏胎仔Ca代謝に及ぼす影響, 川北29) の同剤とヨードカリを使用しての東郷と同様の観察, 月岡30) のProcaine penicillin GとBornylamine penicillin Gの鶏胎仔の発育, 肝組織像に及ぼす影響と尿嚢水への排泄量の測定がある。最近, 沼尾31) はLeucomycinならびにErythromycinを使用し, 今までおこなわれていなかつた鶏胎仔の比較的発育した艀卵9日目における漿尿膜上負荷法をおこなつて, 発育状況, 肝, 腎の組織像の諸変化および尿嚢水への排泄量を比較測定し, 両剤の吸収後の安定性を比較している。
現在までのところ, OTCの鶏胎仔を使用しての実験はほとんど見当らぬようであるが, 私は発育過程にある鶏胎仔に及ぼすOTCの諸影響を検討する目的で, 各種の負荷法をおこない, 負荷法による鶏胎仔死亡率, 発育, 尿嚢水量および尿嚢水への排泄量, 肝, 腎, 心臓等の諸臓器に及ぼす病理組織学的変化に就いて追究したので, 次に報告したいと思う。

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