抄録
外科的感染症の1つである放線菌症は, 取り立てていうほどのものでもないかも知れないが, 最近ではそうしばしば遭遇するものでなく, 我々の所でもだいたい1年に2~3例をみる程度である。このことは, 生活環境の変化もさることながら, ペニシリン等の抗生物質の普及も大きな影響があると思う。何となれば, 少くとも塗抹染色で定型的なドルーゼをみとめ, 臨床症状も全く放線菌症に一致する症例の多数が, ペニシリンの大量投与で一応, 臨床的治癒の転帰をとることからも推定できる。ところが, 筆者は最近, 腹部の放線菌症の1例に出会い, ペニシリン大量投与に加えて, 従来からの治療法としてヨードカリ内服および数回の切開掻爬にもかかわらず, 全く軽快の徴を示さず, 窮余の果てにカナマイシンを試用したところ, きわめて顕著に奏効した例を経験した。文献調査の暇がないまま, その症例の経過を記して大方の御教示を仰ぎたい。