抄録
本論文の要旨は, 昭和41年10月仙台における第23回日本薬学大会において報告した。
Kasugamycinは, 1964年微生物化学研究所の梅沢浜夫博士らによつて, 奈良市春日神社の土壌から分離された放線菌Streptomyces kasugaensisから, 稲のイモチ病 (Piricularia oryzae) に有効な新抗生物質として発見された。
Kasugamycin (以下KSMと略) は, 下に示す構造をもち, C15H27N3O10・H2O・HCl結晶として単離されたアミノ糖 (2, 3, 4, 6-Tetradeoxy-2, 4-diamino-D-mannose) とα-Inositolからなるアミノ配糖体である。塩酸塩は融点 236~239℃ (分解), 水に易溶 (その1gは約8mlの水に溶ける), エタノール, エステル類には難溶の物質である。
本物質はイモチ病に対して強い効果を示すばかりでなく, マウス, ラット, 家兎等に対する毒性も非常に少く, このため医薬としての応用が考えられるようになつた。そこで, 抗菌スペクトラムが検討された結果, 種々の菌株に対して阻止効果がみとめられた。そのうちで有効な化学療法剤の少い緑膿菌に対する阻止効果が注目され, 国立東京第1病院市川篤二博士によつて臨床実験がおこなわれ, 緑膿菌感染症, 特に尿路感染症に有効な抗生物質であると報告されている。
さて私共は本物質について細菌学的基礎研究をおこない, 2, 3の知見を得たので報告する。