抄録
著者らはRecemomycin complexの研究1) から始まり, さらにRacemomycin-Oの構造についての発表2) 以来, 数多くのStreptothricin群抗生物質を分離し, 同定や構造研究をおこなつてきたが, 一方, 土壌から頻繁に分離される抗生物質を生産する放線菌のうちで特にStreptothricin群抗生物質を生産する放線菌だけを取り除こうとする試みをおこなつてきた。
すでに柳沢ら3) は, StreptomycinとStreptothricinおよびNeomycin群抗生物質の耐性はOne wayの耐性を示し, Streptomycin耐性大腸菌はStreptothricin, Neomycinに対して感受性であるが, 逆にStreptothricinやNeomycin耐性大腸菌はStreptomycinにも耐性であるとされている。
また黒尾ら4) によつて, Streptothricin耐性大腸菌を放線菌スクリーニングの被検菌の1つとして応用し, その生菌抗菌像から第1群放線菌の細分類に適していることも報告されている。
著者らは, 感受性標準株から継代植継ぎ法によつてStreptothricin類の耐性菌 (Escherichia coliおよびStaphylococcus aureus) をつくり, それらの性状, 各種抗生物質に対する耐性感受性について検討した。
Streptothricin群抗生物質といえば, その主構成成分として, Streptolidine, α-D-Gulosamine, それにL-β-Lysineを含んでいる抗生物質 (旧型Streptothricin) であつたが, SF-701, LL-AC 541 5) の発見を端緒に, 構成々分が部分的に変化したものの存在が明らかにされてきた。すなわち, Streptolidineまたはα-D-GulosamineのN-メチル誘導体, β-LysineのかわりにFormiminoglycineまたはSarcosineのような単純アミノ酸が構成成分として含まれる抗生物質 (新型Streptothricin) があいついで分離され, これによつてStreptothricin群抗生物質の構造概念は拡大された。新型Streptothricin類は, グラム陽性, 陰性菌に抗菌作用を示すが, 旧型Streptothricin類と同様に強い毒性を有している。これらの生産菌は, 土壌から数多く分離されるようになつたことから, 新型, 旧型を問わずStreptothricin産生放線菌をPrimary screeningの段階で区別できることが望ましく, その点についても若干の検討をおこなつたので報告する。