1975 年 28 巻 4 号 p. 584-594
近年, 細菌感染症に対する化学療法は, 感染病巣から起炎菌が分離同定される以前, または分離不能で起炎菌不明, また2種以上の混在菌がみいだされたばあい, 通常いわゆる広域抗菌スペクトラムをもつ抗生物質を選択投与するのが常識的な治療手段となつている。
Tetracycline系抗生物質は, DUGGER (1948) らによつて発見されたChlortetracyclineを初めとしてOxytetracycline, Tetracyclineなどがみいだされ, さらに6-Demethylchlortetracycline, 6-Methylene-oxytetracycline (Methacycline) およびMinocyclineなどが相ついで誘導合成され, 感染症に対する強力な治療武器となつた。
Doxycycline (以下DOTCと略記する) は, 1963年米国Pfizer社研究陣によつてOxytetracyclineのDehydrogenationにより合成され, 従来のTetracycline剤にくらべ, とりわけ抗菌力, 吸収排泄などがすぐれたいわゆるLong actingの新らしいTetracycline系抗生物質として登場し, すでにその基礎, 臨床面で高い評価が下されていることは周知のとおりである。
DOTCの理化学的性状は, その塩酸塩が淡黄色の結晶性粉末状を呈し, 本剤は酸性液中ではTetracyclineよりはるかに安定であり, アルカリ液ではTetracyclineと同程度で毒性は低いといわれ, 本剤の化学構造式はFig. 1に示したとおりである。
著者は, すでにDOTCに関して, その試験管内抗菌力, 吸収排泄, 体内分布などの基礎的検討をおこなうとともに臨床使用成績についても発表したが, 今回DOTCについて基礎的検討を加え, 静注剤の臨床応用を試みた結果, すぐれた成績がえられたので, その概要を報告する。