The Japanese Journal of Antibiotics
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硫酸Paromomycinによる裂頭条虫,無鉤条虫の駆虫効果
矢崎 誠一竹内 俊介前島 条士福本 宗嗣加茂 甫坂口 祐二
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1983 年 36 巻 3 号 p. 638-643

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抄録

条虫の多くは人の食生活に欠かせない牛・豚肉あるいは魚肉の摂取によつて感染する寄生虫である。日本においては特に魚肉の生食を好む食生活上の特徴から広節裂頭条虫を主とした裂頭条虫類の寄生が古くから知られている。日本の広節裂頭条虫については, 木曾川流域の疫学, 生物学調査について江口1)の詳細な調査研究が行われている。本条虫はその後減少傾向にあることが指摘されていた2)が1960年以降, 他属裂頭条虫も含めて, 再び増加傾向にあることが各地区の疫学調査の結果明らかにされている3~6)。その増加の背景はサケマス類(特にサクラマス)の一般家庭への普及6) にあると考えられている。
広節裂頭条虫症は魚肉に寄生するプレロセルコイド(感染幼虫)が経口的に摂取されることで感染し, 3週間前後で成熟, 糞便内に虫卵が認められるようになる。患者の多くは自然排出された成熟体節末端を見つけて驚き, 医療機関を訪れる。放置しても虫によつては自然排出してしまう場合もあるが, そのほとんどは体節の一部の自然排出を繰り返しながら頭節は絶えず腸管内に残し, 再び成熟虫体となり, 宿主に対しては通常腹痛, 下痢など軽い消化器症状を呈するが, 場合によつては腸閉塞などをきたす可能性もある。
条虫の駆虫剤としては古くから綿馬エキス, 石榴根皮, カマラ, コソ花, クマリン, 雷丸など使用されてきたが, これら生薬は駆虫効果も完全とはいえず, 毒性も強いものが多い。戦後になつてNiclosamide (Yomesan), Paromomycin (Humatin) などが用いられ駆虫効果も報告されているが, 国内においては一般には古くからのKamala と共に吸虫剤として開発されたBithionol(Bitin)が広く使用されてきた。この他駆虫の方法としては駆虫薬を使用せず十二指腸ゾンデによるDAMASODERIVAS変法7) なども試みられている。しかしこの方法も専門的技術を要し, 一般的ではない。従つて条虫治療においては寄生虫駆虫一般に言えることであるが, 駆虫効果が優れており, 副作用の少ないものが求められる。そんな中でアミノ配糖体系抗生物質の硫酸Paromomycinは本来細菌, アメーバ赤痢に効果の知られたものであるが, 経口的に投与した場合, 宿主腸管からの吸収が少なく条虫にも特異的に作用することが明らかにされた8) 抗条虫剤である。これまで使用された硫酸ParomomyCin (Humatin)が薬効再評価の影響で製造が中止された。
Aminosidineは, 硫酸Paromomycin同様抗条虫作用が明らかにされている。今回著者らは本剤の駆虫効果を追試する目的で1980年~1981年の2年間に教室に紹介のあつた条虫症のうち7例について硫酸Paromomycin (Aminosidine) による駆虫を試みたのでその結果について報告する。

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