1984 年 37 巻 7 号 p. 1241-1262
呼吸器感染症は, 常に変貌していると言つても過言ではないと思われる。その原因は, 極めて複雑多岐であるが, 例えば基礎疾患を有する高齢者の場合はこれら基礎疾患の治療によつて感染抵抗力が減弱するなどして, 感染原因である起炎菌の種類が広がり, 病像が一層複雑になることが少なくない。一方, 呼吸器感染症患者の化学療法は, 起炎菌を決定する以前に, 開始せざるを得ない場合が極めて多い。特に急性の場合はほとんどがそうであろう。臨床の実際においては, 更に諸種の因子が加わり, 抗生剤の選択をより困難なものにしているのが現状である。起炎菌の推定抗菌作用域の広い抗生剤のなかから体内動態及び抗菌力を勘案しての選択, 更に患者の病歴及び基礎疾憲の有無, 臨床経過などの情報から適合する抗生剤を第1選択剤とするわけであるが, その選択に際し, 呼吸器感染症起炎菌の動向, そしてこれら起炎菌の各種抗菌・抗生剤に対する経年的な感受性推移などは極めて重要な情報源となる。
著者らは, ここ2年間にわたり全国各地の研究施設と共同で呼吸器感染症患者分離菌を収集し, 患者背景と起炎菌の関係, 起炎菌の各種抗菌・抗生剤に対する感受性推移などを, 経年的に調査してきた。今回も又, 若干の知見を得たので報告する。