The Japanese Journal of Antibiotics
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点滴静注法によるAztreonamの臨床的研究
橋本 伊久雄三上 二郎清水 矩基雄吉本 正典上田 直紀中村 孝沢田 康夫中西 昌美
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1985 年 38 巻 10 号 p. 2827-2837

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抄録

抗生剤の進歩発達, 普及によつて, 近年における感染症起炎菌の様相は大きく変化してきている。腹部一般外科にて多く扱われる感染症である急性腹膜炎, 胆道系感染症においても, ブドウ球菌などのグラム陽性球菌群は減少し, 大腸菌, 肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌群が増加し, 更に老齢に伴う免疫能などの抵抗力を減じた患老では, 常在菌あるいは弱毒菌と呼ばれるセラチア属, プロテウス属, 緑膿菌などの細菌群による感染の増加も指摘され, しかも単一の菌ではなく, これらの菌の混在した複数菌の感染が増加していると言われている。一方, 今日広く使用されているPenicillin系並びにCephem系抗生剤に耐性を有する大腸菌及び肺炎桿菌による感染症が増加し, 臨床上の大きな問題となつてきている。この耐性の原因は耐性菌の有している加水分解酵素β-Lactamaseによるとされており, 現今の抗生剤の開発は, このβ-Lactamaseに抵抗性を有し, グラム陰性桿菌群に有効な薬剤に主力がおかれており, 特にCephem系抗生剤の進歩は目ざましく, 抗β-Lactamase性と, 特にグラム陰性桿菌群に対する強い抗菌力を兼ね備え, 有効性を多くの菌種に拡げた第3世代と呼ばれるCefotaxime, Cefoperazone (CPZ), Ceftizoxime, Latamoxef (LMOX), Cefmenoxime, Cefotetan, Cefpiramide, Ceftazidime, Cefminox, Ceftriaxoneなどが開発され, その一部はすでに市販されて一般に使用されるに至つている。しかしこれらのいわゆる第3世代Cephem系抗生剤も, グラム陰性菌特に緑膿菌に対する抗菌力は不充分とされ, β-Lactamaseによる加水分解に対する安定性も問題が残されている。一方, Aminoglycoside系抗生剤も, グラム陰性菌, 特に緑膿菌に対して強い抗菌力を示すものが多いが, 聴器及び腎毒性に問題があるとされている1, 2)。
米国Squibb医学研究所において, β-Lactam系抗生剤の整理統合研究のためにβ-Lactam環を核として組織的な研究を行つた際, 植物寄生の好気性真性細菌からグラム陰性菌に抗菌力を有し, β-Lactamaseに非常に安定なβ-Lactam単環を有する物質を発見し, これをモデルとしてL-Threonineから全合成された薬剤がAztreonam (AZT)である3)。著者らは先にAZTの1g Vial剤を使用して, 43例の外科的感染症の治療を行い, その有用性を検討すると共に, 更に28例の手術時に術前に本剤1gを静注し術中採取した各種体液, 組織内濃度をEscherfchia coli NIHJ JC-2を検定菌とするBioassay法により測定して, グラム陰性桿菌による腹部外科的疾患に極めて有用であることを認め報告した13)。
一般に感染症にて入院している患者の治療に抗生剤を投与する際には, 5%ブドウ糖液あるいはLactated RINGER液などの輸液に混ぜて点滴静注を施行し, 1日2回の投与を行うことが多い。他の薬剤との混合注射をさけるためには抗生剤単独の点滴静注用製剤が望ましく, 一部の抗生剤で点滴静注用のBottle剤が開発, 使用されている。今回AZTの点滴静注用Bottle剤の提供を受けたので, 本剤を使用して若干の外科系感染症の治療を施行し, 有用性を認めたので報告する.

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© 公益財団法人 日本感染症医薬品協会
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