The Japanese Journal of Antibiotics
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Chlamydia trachomatis尿道炎のDoxycyclineによる治療
森 忠三小島 弘敬
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1985 年 38 巻 11 号 p. 3179-3187

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抄録

最近わが国でも非淋菌性尿道炎の症例数の増加が顕著である。1907年PROWAZEKとHALBERSTÄDTERとはトラコーマ患者材料を接種したオラウータンの眼瞼結膜の円柱上皮細胞中に独特の封入体 (PROWAZEK小体) を記載した。1910年LINDNERらはサルの結膜に新生児結膜炎の結膜, その母の子宮頸管, 父の尿道の材料を接種し, いずれによつても同様のPROWAZEK小体が生じることを報告した。1936年宮川らはLymphogranuloma venereum (LGV) についてPROWAZEK小体に類似した宮川小体を記載した。
Chlamydia trachomatisは偏性細胞内寄生体で分離培養が不可能であつたこと, C. trachomatis尿道炎の臨床症状が淋菌性尿道炎と類似し, それよりはるかに軽度であつたことから,C. trachomatis生殖器感染症の臨床的検討は大幅に遅延した。第2次大戦後, 淋菌性尿道炎に対してBenzylpenicillin (PCG), Spectinomycin (SPCM) など完全な治療法が確立された後になり, 淋菌が分離されず, PCG, SPCMが有効でない非淋菌性尿道炎 (Nongonococcal urethritis, NGU) の存在が明白になつた。NGUが世界でただ1力国, 届出制になつている英国では1951年から1980年の間までにNGUの症例数は7倍となり, 淋菌性尿道炎の約2倍に達した1)。ようやく1970年代に入つて欧米諸国でC. trachomatisがNGUの最も頻度の高い起因菌であることが確認され2~5), わが国でも同様の報告がなされた6~8)。開発諸国ではすでに臨床的に問題とならなくなつたトラコーマ, LGVの起因菌が, 最多発生殖器感染症の起因菌であつたことは予想外の事実である。1983年西浦らによりわが国に導入された抗C. trachomatis種特異抗原モノクローナル抗体を用いる蛍光抗体直接法 (Chlamydia trachomatis fluorescent antibody technique, CTFA) による感染上皮のスメアからのC. trachomatisの検出法9)により, 生殖器C. trachomatis感染症の診断が容易となつた。最近1年6ヵ月間の日本赤十字社医療センターでの男子尿道炎341例の起因菌はFig. 1に示すとおり, 淋菌だけ陽性118例 (34.6%), C. trachomatisだけ陽性137例 (40.2%), 淋菌, C. trachomatisいずれも陽性28例 (8.2%), 淋菌, C. trachomatisいずれも陰性58例 (17.0%) である。欧米でC. trachomatisに対する優れた抑制効果の報告のあるDoxycycline (DOXY) のC. trachomatis尿道炎に対する治療効果の検討を行つた。

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