The Japanese Journal of Antibiotics
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乳癌術後創滲出液へのCefotiamの移行について
経時的及び経日的検討
橋本 伊久雄沢田 康夫中村 孝三上 二郎西代 博之吉本 正典中西 昌美畚野 剛前田 憲一
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1986 年 39 巻 1 号 p. 99-108

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抄録

外科系各科における手術療法は, 術前, 術後の患者状態の管理, 麻酔及び手術手技の向上によつて, 手術適応が拡大され, 特殊あるいは全身状態の不良な病態下でも, 大きな手術侵襲が加えられるようになつてきた。このような手術の術後に感染症を合併すれば, 患者の苦痛は増加し,治療日数が延長されるだけでなく, 手術の失敗, 患者の死亡に至る可能性もある。従つて抗菌性化学療法剤の進歩発達, 普及した今日, 術前に細菌感染を有しない無菌手術, 準無菌手術においても, 術後予防的に各種の抗生剤が投与されている現状である。
近年において, 術後感染症の発生件数は減少してきているが,複雑且つ難治な感染症は増加していると言える。その原因には先ず, 術後感染症における起炎菌の変貌があげられ, 以前には創感染の起炎菌の多くを占めていたグラム陽性球菌群が減少し, 代つて大腸菌, Klebsiella pneumoniaeあるいはSerratia属, Pseudomonas属などのグラム陰性桿菌群が主たる起炎菌となつてきた1, 2)。しかも単一の菌ではなく, これらの菌の複数が起炎菌となる複数菌感染症がその多くを占めている。更に癌などの基礎疾患あるいは老齢などに起因する抵抗性の減弱状態, すなわちCompromised hostと呼ばれる患者に発生する弱毒菌感染症が問題とされており, これらに対する術後感染症発生の予防には, 手術部位に応じた適切な抗生剤の投与と, 免疫学的な補助療法が必要となつてくる。従つて, 今日の術後感染症の治療ないしは予防に当つては, 薬剤の選択, 投与量, 投与方法並びに投与期間について詳細に検討する必要があると言えよう。
無菌手術あるいは準無菌手術において, 術後感染防止のために抗生剤を投与するに当つては,投与された抗生剤が, 術後感染が多く認められる創部, 特に滲出液中にどの程度移行しているかを検索することは極めて有意義であると言える。しかしながら, 抗生剤の人体内における動態は, 多くの場合, 血中濃度の推移と, 尿中排泄によつて検索されており, 感染病巣自体の抗生剤動態の検索は極めて困難であり, 少数例の報告があるに過ぎない3, 4)。このうち術後感染に関するものは, 胸腔, 腹腔内臓器切除後の死腔や乳房切除後の創部からの滲出液への抗生剤移行の検討が試みられている。しかしながら, これらの研究では得られる滲出液量が微量のため, 多くの場合はカテーテルから低圧持続吸引した滲出液を数時間貯溜し, この貯溜した液の濃度を測定しているのが現状であつた。このため測定された濃度は平均濃度であつて, 抗生剤投与後の各時点での滲出液中濃度ではなかつた。そこで著者らは, 検体量がごく微量でも測定可能な方法として, Paper discによる検体採取を試み, 経時的に術後創部分泌液への抗性剤移行の検索を行つた5, 6)。
本研究においては,乳癌根治手術後の創部滲出液中のCefotiam(CTM)濃度を, 経時的及び経日的に測定し, 若干の興味ある成績を得た。この成績は術後感染防止にCTMを使用するに際して, 極めて有用であると考えられるので報告する。

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