The Japanese Journal of Antibiotics
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成人におけるNornoxacin投与時の糞便内細菌叢への影響
本廣 孝織田 慶子荒巻 雅史川上 晃田中 耕一古賀 達彦島田 康冨田 尚文阪田 保隆藤本 保西山 亨久田 直樹石本 耕治富永 薫山下 文雄
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1987 年 40 巻 9 号 p. 1584-1616

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抄録

キノロンカルボン酸系の経口用合成抗菌剤であるNorfloxacin (NFLX) を22歳から25歳, 体重53.0~84.0kg, 平均67.0kgの健康男性に本剤1回量200mgを1日3回, 毎食後 (投与開始日は昼食後, 夕食後の2回, 投与終了日は朝食後の1回) 延べ6日間, 実質5日間経口投与し, 投与開始前5日, 投与開始日, 投与開始3日後, 投与開始5日後 (投与終了日), 投与終了3, 5, 10, 20日後における糞便内細菌叢への影響をみると共に糞便内濃度を測定し, 7例の糞便から分離した種々の細菌のNFLXとNalidixicacid (NA) に対する薬剤感受性を実施, 副作用及び臨床検査値への影響について検討したところ, 次のような結果が得られた。
1. 好気性菌ではEnterobacteriaceae中Escherichia oli, Klebsiellasp., Cimbactersp., Enteroibactersp.は本剤の投与により一過性に有意の減少か消失例がみられ, E.coli以外の3菌種は投与終了後分離例が多くなる傾向を示し, Pmeussp.では一定の傾向を示さなかつた。Enterobacteriaceae全体でみた場合, 投与開始3日後と投与開始5日後 (投与終了日) に検出例はそれぞれ4, 2例と減少し, その後分離例は漸次増加, 平均菌数も投与開始前の菌数に回復した。その他のグラム陰性桿菌ではPlesiomonass P.は一定の傾向になく, Pseudomonass P.は投与開始3日後と投与終了3目後に検出例は各々6, 5例と増加がみられた。グラム陽性菌ではStaphylococcus sp.は投与開始3日後に分離例は減少し, 投与開始5日後 (投与終了日) と投与終了3日後の検出例はそれぞれ5例, 全例と増加し, その後分離例は減少した。Enterococcus sp.では変化がなく, Micrococcussp.とYeastlikeorganisms (YLO) も一定の傾向を示さなかつた。総好気性菌は全検索日にすべてから検出され, その平均菌数で変化を示す傾向はなかつたが, 個々の例でみた場合には投与開始後有意の減少を示す例があつた。
2.嫌気性菌中Bacteroides fragilisは全例がすべての検索日で分離され, B.fragilis以外のBacteroi4esは投与開始5日後に検出されない例が1例あつたが, 他の7検索日ではすべてから分離され, 両者共にその平均菌数に変化はなかつたが, 投与開始後Caseごとにみた場合には両菌種共に有意の減少を示す例があつた。Bifidbacteriumの平均菌数は投与開始3日後, 投与開始5日後と投与終了3日後に有意の減少がみられ, その他の検索日では変化はなかつたが, 個々の例でみた場合には検索日によつて有意の減少を示す例があり, Lactobacillusでは一定の変化を示さなかつた。Clostridium difficile以外のLecithinase (-) Clostridiumは投与終了5日後まではすべてから検出されず, 投与終了10, 20日後に各々4, 3例から分離され, Lec.(+) のClostridiumは投与開始3日後と投与終了5日後に分離例は増加した。C.difficileは投与開始5日後 (投与終了日) までと投与終了10, 20日後は全例から検出されなかつたが, 投与終了3日後と投与終了5日後はそれぞれ4, 5例に分離され, そのいずれからも糞便中のC.difficile D-1毒素が検出され, C.difficileが分離されなかつた2例中1例からも投与終了20日後には糞便中のC.difficileD-1毒素が検出され, C.difficileの分離例と糞便中のC.difficile D-1毒素の検出例は多かつたが偶然性も考えられ, 今後例数を増しての再検討が必要である。Peptococcaceaeはいずれの例も全検索日で分離され, 平均菌数での変化はなかつたが, Caseごとにみた揚合には投与開始後に分離例が減少する傾向を示した。総嫌気性菌全体では投与開始3日後の平均菌数は有意に減少し, その後の検索日では変化がみられなかつたが, 個々の例でみた場合には有意の減少を示した例があつた。
3.糞便内細菌叢への影響を観察した同じ7例の糞便中濃度では投与開始3日後, 投与開始5日後 (投与終了日), 投与終了3日後各々の平均は520.7,923.0, 101.4μg/gで, 投与開始5日後 (投与終了日) が最も高濃度を示し, 投与終了5日後の3例が0.6~363μg/gで, 4例は検出限界以下, 投与終了10, 20日後はいずれの例も検出限界以下であつた。
4.本剤投与例の糞便から検出された種々の細菌の接種菌量106cells/mlのNFLXとNAに対する薬剤感受性ではNFLXはグラム陽性球菌及びグラム陰性桿菌共に今日までの報告と同じくNAより優れたMICを示す傾向にあり, 分離株を各菌種ごとにわけ投与開始前, 投与中, 投与後につきMICの変化をみたところ, 対象株数は少なかつたが, Staphylococcusaums, Coagulase-negative Staphylococci, Enterococcus faecalis, Enterococcus faecium, E. coli, Citrobacter freundii, Acinetobactercalcoaceticusの7菌種で観察でき, coagulase-negative Staphylococciだけで両剤共に投与開始前の分離株から投与中, 投与後の分離株で, MICが大を示す株があつた。
5. C.difficileが投与終了後5例から, 糞便中のC読がcileD-1毒素が6例から検出されたが下痢などの消化器症状やその他の副作用の出現例はなく, 臨床検査値への影響では1例にGPTの軽度異常上昇がみられた。

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