2000 年 53 巻 3 号 p. 135-156
B型およびC型慢性肝炎は高率に肝硬変に進行し, 更に肝細胞癌を発症することは良く知られている。肝炎ウイルス持続感染により肝内で1型ヘルパーT細胞応答がupregulationされ, 遅延型過敏反応や炎症反応の充進により肝細胞障害および線維化をきたす。筆者らはB型およびC型慢性肝炎患者に新規メタロエンドペプチダーゼ-F (MEP-F) を内服投与することにより肝炎ウイルスの血中レベル (HBs抗原およびHCVRNA) が低下し, 肝機能障害の改善が得られることを明らかにした。しかし, その作用機序の詳細は不明である。最近, 障害および炎症組織においてα2マクログロブリン (α2MG)-プロテアーゼ複合体が免疫調節や組織修復・再生機構に重要に関与していることが明らかにされている。本稿において, αMG-プロテアーゼ複合体の分子機序を概説すると共に, メタロエンドペプチダーゼ-Fの臨床所見に基づき, ウイルス性慢性肝炎に特徴的な遅延型過敏反応や炎症反応の充進および線維化に対するα2MG-MEP-F複合体の薬理作用の解明を試みた。α2MG-MEP-F複合体は慢性化した炎症病態を急性期状態に揺り戻すことにより, 特異的細胞障害性T細胞や非特異的細胞障害応答の誘導およびサイトカインによる制御を劇的に増強してウイルスを排除すると共に, 線維化を抑制し, 組織修復・再生をもたらすものと考える。