The Japanese Journal of Antibiotics
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救急・集中治療領域における深在性真菌症の診断・治療ガイドラインの影響
ガイドライン準拠, 非準拠と転帰への影響
織田 成人石川 秀樹村田 厚夫島崎 修次平澤 博之相川 直樹
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2008 年 61 巻 1 号 p. 29-41

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抄録

目的: 2003年2月に初めて発表された本邦における「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン」 (以下ガイドライン) が救急・集中治療領域における深在性真菌症の診断, 治療に与えた影響と患者転帰への影響について検討する。
方法: 2003年5月から2004年8月まで日本クリティカルケア真菌症研究会に参加した, 救急・集中治療機能を持つ全国15の医療機関において診療した真菌感染症が疑われる症例 (抗真菌薬投与症例あるいは抗菌薬不応発熱症例) について, 患者背景, リスクファクター, ガイドラインに対する意識, 診断, 治療内容, 転帰などを調査した。これらをもとに, 患者に対する診断と治療の流れが本ガイドラインで推奨されている診断と治療に準じたものであったかどうかをそれぞれ判定した。さらに, 本ガイドラインで推奨されている抗真菌薬及び投与量により治療が行われていたか否かを調査し, 本ガイドライン準拠, 非準拠別の転帰についても検討した。
結果: 評価対象例125例のうち55.2%に本ガイドラインを意識したという回答が得られた。本ガイドラインを適応した場合の診断は, 真菌症と確定診断されたもの10例 (8.0%), 臨床的真菌症と診断されたもの3例 (2.4%), 疑い例35例 (28.0%) であった。残りの77例 (616%) は, 非真菌症あるいは真菌症であるか否かが判定不能な症例であった。本ガイドラインに準拠した治療が行われていたのは, 25例 (20.0%), 本ガイドラインに準拠した治療が行われていなかったのは23例 (18.4%) で, 77例 (61.6%) は非真菌症あるいは真菌症であるか否かが判定不能な症例であった。本ガイドラインに準拠した治療が行われたか否かを判定できた症例が少なくなった理由として, 本ガイドラインに記載されている「広域抗菌薬不応の発熱3日以上」が抗真菌薬投与の前提となっていることが大きく影響していた。本ガイドラインを意識したかどうか, 及び治療の内容が本ガイドラインに準拠していたかどうかにより, スタディ終了時の転帰 (生存・死亡) に有意な違いはなかった。ICU在室日数は, 本ガイドラインに準拠した治療の方が本ガイドラインに準拠しない治療よりも長かったが, 有意な差はなかった。
結論: 本ガイドラインは半数を超える登録患者の治療時に認知されていたが, 実際には本ガイドラインに準じた診断・治療が行われているのは少数例であることが明らかになった。その理由として, 経験的治療の対象となる真菌症疑い例における「広域抗菌薬不応の発熱3日以上」という項目が大きく影響しており, 本項目の妥当性について今後検証していく必要があると考えられた。

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