Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
下垂体後葉 (犬) における位相差顕微鏡所見, 特に神経分泌核における神経分泌物と後葉における神経分泌物との差異について
視床下部下垂体系の比較組織学的研究. 第33報
高橋 誠一郎
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1957 年 12 巻 2 号 p. 311-316

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抄録

前報に引き続き, 正常犬の後葉について位相差顕微鏡観察を行った.
無固定凍結切片の位相差観察によっても, Gomori 染色標本におけると同様に‘Verdichtungszone’の主として血管周囲に, 多数の, 神経分泌細胞内に認められるものと同大或はそれらよりも稍々大形の顆粒が見出され, その分布状態及び次報において記載するごとく渇状態下におけるその激減の所見から, それらは Gomori 染色標本における Gomori 好性顆粒, 即ち神経分泌顆粒と同定される. 後葉膠細胞 (pituicyte) は多種多様の形態を示し, 細胞体の大部分は核によって占められ, 細胞質はその周囲に僅かに膜状に認められる. 神経分泌細胞におけるごとき細胞質内の顆粒は認められない. 突起は単極, 双極或は多極であり, 全長を辿ることはできないが,内部は無構造に見え, 経過中, 屈曲, 蛇行状, 波状, 弓状等の走行或は部分的肥厚を示す. 以上の所見は Zenker 氏液, Bouin 氏液或は formalin で固定した paraffin 切片でも大体同様に認められる.
一般に alcohol で固定した切片では神経分泌核でも後葉でも Gomori 好性顆粒は染出されないが, 脱パラ前にその切片を Zenker 氏液又は Bouin 氏液で再固定すると, 神経分泌核には依然として Gomori 好性顆粒が認められないが, 後葉には再固定によって Gomori 好性を回復した顆粒が出現することが知られている. 然るに alcohol 固定切片を位相差法で観察した結果, この場合にも神経分泌核には分泌顆粒を見出し得ないが, 後葉には分泌顆粒が失われていないことが見出された. しかもこの場合は単に alcoholで固定したのみの切片について分泌顆粒が認められ, 再固定の有無には関しない. 即ち alcohol 固定切片での位相差顕微鏡所見は神経分泌核では Gomori 染色所見と一致するが, 後葉では全く異るのであり, このことから alcohol 固定の後葉において Gomori 好性顆粒が失われていることは分泌顆粒そのものの喪失を意味するのではなく, 分泌顆粒の染色性の変化, 換言すれば Gomori 好性の喪失に基ずく所見であることがわかる. またこのことから神経分泌顆粒が等しく糖脂質蛋白複合体であるとしても, 視床下部と後葉の両部位ではその構造, 恐らくは Gomori 染色における呈色物質と脂質の結合状態が異っていることが推定されるとともに, alcohol によって Gomori 好性が失われた状態においても後葉の後葉ホルモン検定値が不変に止まるという Hild と Zetler の報告が裏付けられる.

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© 国際組織細胞学会
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