抄録
乾燥食餌と食塩水で餌育して実験的に渇状態におちいらせた犬の視床下部下垂体系について位相差顕微鏡観察を行った.
視床下部の神経分泌細胞では神経分泌顆粒が激減し, Nissl 物質は形態と配列が乱れ, 正常時の神経分泌細胞で見られるような peripheral localization が失われ, 細胞中心部にも屡々大形顆粒状のものが現われている. これらの所見は無固定凍結切片でも Zenker 氏液で固定した paraffin 切片でも同様に認められ, 何れも固定切片に Gomori 染色或は Nissl 染色を施した場合の所見と一致する. しかし細胞核容積の増大は位相差法では確認し得なかった. 後葉における所見も Gomori 染色の場合と一致し, 分泌顆粒の激減が認められる. 6例を通じて後葉膠細胞の分裂像は見出し得なかった.
前報において著者は, alcohol で固定した後葉における Gomori 好性顆粒の喪失が分泌顆粒の喪失を示す所見ではなく, 分泌顆粒の染色性の変化に基ずく所見であることを報告したが, 渇状態における位相差顕微鏡所見は視床下部においても後葉においても Gomori 染色の場合と一致し, 分泌顆粒そのものが激減乃至は消失していることが確かめられた.