Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
テトラゾリウム塩のSH基に依る非酵素的還元に就いて
橋本 健小川 和朗
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1961 年 21 巻 2 号 p. 239-249

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抄録

Wistar 系ラッテの皮膚を用い, テトラゾリウム塩 (ナイトロネオテトラゾリウム塩を用いた) のSH基による非酵素的還元を, 特に hydrogen transfer system の観点から追究した.
皮膚内SH (毛の角化層に著明) のテトラゾリウム塩還元力は, 浸漬液内にダイフォスフォピリジンニュクレオタイド (DPN) を加えると幾分増強するが, DPNを加えなくとも反応が起る事, サイトクロームオキシダーゼ抑制剤である窒化ナトリウム, 或いはシアン化ナトリウムの影響を受けない事, 及び, in vitro でSHを有する諸物質が, 直接 (L-cysteine, ethyl mercaptan, reduced glutathione, thioglycerol), 或いはシアン化ナトリウムで活性化される事により (L-cystine, DL-methionine, 2-mercaptobenzothiazole, 2-mercaptobenzimidazole, sodium hydrosulfide, thioglycolic acid), テトラゾリウム塩を還元する事等からして, SH基のHは, DPN或いはTPNダイアフォレーズ系を介してテトラゾリウム塩に移行する道のみならず (ZIMMERMAN と PEARSE 1959), 直接, テトラゾリウム塩に移行する経路がある事が判った.
尚, SH基の非酵素的還元反応は, 浸漬溶液のpHによってその強さが左右される. 即ち, pH4.4附近で始めて現われ, その後, pP7.0迄は徐々に強くなるが, アルカリ性溶液では還元力が急速に強まり, 本研究で試みた最高pH値, pH13.0で最も強かった.
附加的所見として得られた事は, シアン化ナトリウムの浸漬液内最終濃度が, 0.01M以上の場合には, シアン化ナトリウム自身が, テトラゾリウム塩を還元する能力が有る事であり, この事実は, 乳酸脱水素酵素系, リンゴ酸脱水素酵素系等の組織化学的検出の際用いるシアン化ナトリウムの量に注意を要する事を示唆している.
更に, テトラゾリウム塩を用い, 諸脱水素酵素系の活性を検出する際, 組織内SH基の存在を考慮に入れなければ, 本来の酵素反応と, SH基による非酵素的還元反応を混同し, 酵素活性の判定を誤る恐れがある. 皮膚の如く, SH基の多い組織では特に慎重を期さなければならない.

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© 国際組織細胞学会
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