抄録
中耳炎の手術に際して採取した9例のヒト耳道腺 (アポクリン汗腺) を電子顕微鏡により観察した.
1. 耳道腺の一般的形態はヒト腋窩アポクリン汗腺とほとんど異ならない. しかし, 耳道腺では, 腺細胞基底部の形質膜の陥入は認められず, 腺細胞間の入り組みもすくない.
2. 腺細胞の一部の糸粒体は非常に大きく, 内部二重膜の数が少なくなるが, このような糸粒体の崩壊, あるいは, その内容物の放出像は観察できなかった.
3. 暗調顆粒は Golgi 小胞内に生ずる電子密度の高い物質が集合して, 形成されると思われる. この暗調顆粒が大きくなるに従って, その内部に空胞を生じ, しばしば顆粒表面から突出している. おそらく, この空胞は顆粒より離れて, その内容物を腺腔に放出すると思われる.
4. 上記の暗調顆粒に類似した封入体が筋上皮細胞内にも, しばしば観察される. しかし, この封入体は暗調顆粒と形態的に異なっており, ライポフシン (lipofuscin) 顆粒と思われる.
5. 分泌物の放出機序, ならびに, 暗調顆粒とライソソーム (lysosomes) との関係について考察を加えた.