抄録
10∼16才のヒトの健全な永久歯, および歯根吸収のほとんど認められない正常乳歯の知覚神経分布を尿素鍍銀法により組織学的に観察し, 乳歯と永久歯の神経支配を比較した.
1. 知覚神経線維束は, 歯根歯髄内では主としてその中央を血管とともに上行し, 周辺部には二三の細線維が認められるにすぎない.
2. 神経線維は歯冠歯髄の細胞稠密層あるいは細胞稠密層下において, 象牙芽細胞下神経叢 (Raschkow の神経叢) を形成する. さらに象牙芽細胞-象牙前質境で辺縁神経叢をつくる.
3. 象牙前質における神経線維には, その走向から3種類が区別された. すなわち 1) 象牙細管に沿って石灰化象牙質に向かうもの, 2) 象牙前質内の種々な高さで横走するもの, 3) 象牙前質-象牙質境で折りかえして象牙芽細胞層に達するものである. 横走線維は複雑に分枝して, 神経叢様構造を示していた.
4. 乳歯と永久歯のあいだに神経分布の基本的相違は認められないが, 総じて乳歯の神経分布は永久歯のそれに比較して疎である. とくに典型的な辺縁神経叢が観察されない場合もあり, 石灰化象牙質内にまで達する神経線維は確認できなかった. このことが乳歯の知覚が永久歯のそれに比較して鈍である理由と考えられる.