抄録
サイアミンは 周知のように きわめて水溶性で, 細胞学的にその局在を見ることが困難であったが, 固定と脱水の際に塩化白金酸を加えることにより, thiamine-PtCl6として細胞内に不溶性の, しかも電子密度の高い沈澱を作ることに成功した. トリチウム標識のサイアミンを妊娠15日のラットの母血中に注入して, それが胎盤を通過, 輸送される状態を, 上述の方法を用いて切片を作製し 電子顕微鏡オートラジオグラフィを行なって観察し, また 組織の放射能値を測定した.
オートラジオグラフィの現像銀の数 および組織の放射能値は, 注射後30分例がもっとも多く, 2時間例が これに次ぎ, 5時間例では 著しい減少を示す. 現像銀の細胞内における分布は, 一般に物質の輸送路をなすと考えられている滑面小胞体に圧倒的に多く, ミトコンドリア, ゴルジ装置などには少ない. 現像銀の数および組織の放射能値が比較的短時間 (注射後5時間) に胎盤において 著しい減少を示すことと併せ考え, サイアミンはその大部分のものが 胎盤を通過して胎児に送られ, 胎児臓器にとりこまれ, その代謝にあずかるものと思われ, 胎盤にとりこまれて 胎盤自身の代謝にあずかるものは 少ないと考えられる.