抄録
人口唇外皮部に対する知覚線維の一小部分は真皮乳頭層内に進み, 頭皮乳頭層内に於ける様に非分岐性又は単純な分岐性終末として終るが, 大部分は毛髪神経として専ら毛嚢頸に存する特殊組織内に終止する.
知覚性毛髪神経線維及其終末の発達は頭皮に於けるより遙かに著しい. 即ち該組織は頭皮では概ね一側的の毛髪神経楯 (瀬戸) で表わされるに過ぎないが, 口唇外皮部では専ら外毛根鞘を包囲する毛髪神経管に依って表わされるからである. 此特殊組織内に終る知覚線維の終末様式は一般に複雑性を示す. 即ち頭皮で見られる様な不定型終末の如き単純型終末は認められず, 複雑な叢状及び鋸歯状終末, 又は両者の混合型の存在を見る.
特記事項として, 口唇移行部寄りの外皮部には強力な毛嚢腺を有するにも拘らず極めて劣勢な微毛を有する外毛根鞘周囲の特殊組織内に前記終末を凌ぐ強力に発達する知覚性叢状終末の形成を見る. 尚お屡々之より発する知覚線維が更に上方の外毛根鞘に接して第2次叢状終末を形成する事がある.
Kadanoff の外毛根鞘内に終るという上皮内線維, Szymonowicz の触細胞及び之に終るという上皮内線維は決して証明されない.
口唇外皮部に於ける植物神経の分布は一般有毛性外皮に於ける場合と一致する. 其終末は終網 (Stöhr) で表わされ, 総ゆる組織細胞に対し主として接触的主宰を示す.