戦前期の林業経済学の動向への注目はこれまで乏しく、戦前期には見るべき林業経済学の研究・教育はほとんど存在せず、戦後に勃興した林業経済学が林政学を打破した、という評価が定着している。本稿では、これまで十分に評価を受けてこなかった戦前期林業経済学について、学術文献を発掘し、諸相および断絶の理由を明らかにすることを目的とした。その結果、フィシュバフ著・首藤訳(1879)、ウェーベル著・望月訳(1896)、小出(1910)、川島(1917)など複数の文献が見いだされた。これらの文献には、ドイツ語圏の学術の影響や、私経済論と公経済論の混合といった特徴がある。また、国内外の林学者と経済学者の文献が引用されたものもあり、一定の水準を持つ林業経済学が戦前期に展開していたことが確認された。こうした戦前期林業経済学は、担い手の逝去による人的断絶と制度化が果たされなかったことによって、戦後に継承されなかった。マルクス経済学を主流とする戦後林業経済学は、このような状況の先に成立した。