アプライド・セラピューティクス
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多彩な臨床背景を有するリアルワールドの外来てんかん患者における薬物血中濃度解析に基づく薬剤師からの薬物治療への提言
小森 浩二関本 裕美星田 徹荻田 喜代一米山 雅紀
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2024 年 19 巻 p. 1-11

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抄録

近年、てんかんの薬物治療にはいくつかの新規薬物が導入されており、従来の薬で満足する効果が得られない患者では、しばしば併用治療が実施されている。これらの患者において薬物血中濃度と効果及び有害反応について、患者の多彩な臨床背景を加味して検討した報告は少ない。そこで本研究では、実臨床の場で抗てんかん薬物治療を受けた患者の、発作の寛解および有害事象発現を各種抗てんかん薬の血中濃度と患者背景と共に解析した。 調査対象は奈良医療センターてんかんセンターで薬物治療を受けた患者で、必要なデータは後方視的に診療録から抽出された。対象薬はバルプロ酸(VPA)の他、10薬物であった。収集された734名のデータは、単剤療法群(以下、単剤群)および多剤併用療法群(以下、多剤群)間で薬物治療効果と有害事象の有無について、薬物血中濃度と各種臨床背景を変動因子として統計的に解析された。治療効果は、発作の完全消失(寛解)と非寛解で評価し、有害事象については外来診察時に23種の自覚症状の有無を調査した。 VPA、カルバマゼピン(CBZ)、レベチラセタム、ラモトリギンの治療効果を単剤群で評価すると、寛解と非寛解の患者間で薬物血中濃度は有意差を認めなかった。また、どの薬物も寛解患者の4~5割程度で血中濃度がガイドラインで提唱されている参考薬物濃度域より低かった。多剤群の非寛解患者のVPA、CBZ、クロナゼパムの平均血中濃度は寛解患者より有意に高かった。一方、有害事象の発現の有無は、単剤群でも多剤群でも血中濃度に関連していなかった。さらに、単剤および多剤群における有害事象のない非寛解患者で、薬物血中濃度が参考濃度域より低かった患者が約2割存在することも明らかとなった。  結論として、てんかんの薬物治療では単剤少量から開始し臨床効果を参照しつつ漸増する重要性が確認された。また、有害事象の発現なく寛解効果が得られていない患者は一定数存在し、血中薬物濃度を参照して薬剤師が抗てんかん薬の増量を提案できる可能性が示唆された。

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© 2024 日本アプライド・セラピューティクス(実践薬物治療)学会
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