失語症研究
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原著
拍産出能力の保存された重度失語症の2例
杉浦 主子米田 行宏吉田 高志山鳥 重
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1992 年 12 巻 4 号 p. 313-322

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抄録

     拍は,日本語の発音において最小の単位であり,同じ長さに (等時的に) 発音されることによって特徴づけられている。日本語のリズムは,拍の等時性と音声の休止により成立し,和歌,俳句などもこれを基礎としている。われわれは,重度失語症にもかかわらず拍の等時性が保たれた2例について報告する。
    症例1は,発話の大部分が新造語で占められており,拍をほぼ等間隔,無アクセントに産出したのが特徴的であった。さらに,休止によって数拍ごとにまとめられた発話は,日本の定型詩の韻律を思い起こさせた。
    症例2は,発音可能な音は限られていたが,それらの音で1拍および2拍の単位からなるリズムを形成し産出した。発話の形成過程が階層構造をなしていると仮定すると,そのひとつに母国語のリズムを構成する階層があり,今回の2症例は,脳損傷によりその階層のみが保存され表現される場合があることを示唆している。

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© 1992 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会)
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