失語症研究
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原著
  • 柴崎 光世, 利島 保
    2002 年 22 巻 4 号 p. 264-271
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    顔の認知では,他の対象と比べて,各構成要素間の空間関係を処理し,全体的形態を把握する全体処理システムに強く依存することが知られている。本研究は,相貌失認症状を呈した脳損傷者 IMの全体処理システムを調べることにより,その障害機序を検討した。実験1では,倒立顔の認知が正立顔より障害される顔の倒立効果が IMにおいて認められるかどうかを調べた。その結果,IMの場合は倒立顔に対する認知が正立顔よりむしろ良好で,顔倒立効果とは逆の傾向が示された。実験2では,局所文字によって大域文字が構成される階層的刺激を用いた同定課題を行った。IMは健常者と対照的に部分優位な遂行を示し,大域文字より局所文字に対する反応時間が速くなった。これらの結果は,IMの全体処理システムが障害されていることを示唆しており,患者の顔認知障害にこのような視覚処理過程の不全が関与している可能性がある。
  • 冨樫 尚子, 宮崎 晶子, 永井 知代子, 岩田 誠
    2002 年 22 巻 4 号 p. 272-279
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    前頭葉損傷患者に迷路課題を用いて,視空間的ワーキングメモリーと前頭葉の関係について検討した。さらに,前回 (宮崎ら 1999) パーキンソン病 (以下 PD) 患者に同じ迷路課題を用いて報告した結果と比較してPD患者と違いがみられるか検討した。前頭葉損傷患者 11人,健常者 9人を対象とし課題を行った結果,前頭葉損傷群は対照群よりゴールまでの施行回数が増加し,誤反応のパターンが異なっており,PD群の誤反応パターンとも違いがみられた。前頭葉は,視空間的ワーキングメモリーにおいて,変化する情報の記銘・貯蔵機能より,課題の遂行過程において変化する状況をモニターし操作を加えるといった情報の処理機能の役割が大きいと推測された。また,PD患者では前頭葉損傷者と比べると記銘・貯蔵機能が低下している点で違いがあり,PD患者の視空間性ワーキングメモリーは前頭葉との関連のみではなく異なる基盤が存在する可能性が示唆された。
  • 谷 哲夫, 飯塚 優子, 荒木 吏江子
    2002 年 22 巻 4 号 p. 280-291
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
       左中心前回下部梗塞後に純粋発語失行症を呈した症例を報告した。本研究の目的は,純粋発語失行症における構音の誤りとプロソディーの異常を数量化して両者の関係を検討し,基本症状を推定することにある。
       本例の回復は非常に早く,発症から 18日で退院した。発話症状の検査は第2,第4,第12,および第18病日に実施した。構音の誤りにおいては歪み,置換,反復が多かった。前期2回の検査では構音の誤りとプロソディーの異常の生起率は乖離していた。また,両者が生じる位置の一致率は 0~50%と変動が大きく,両者に明らかな関連性があるとは判断できなかった。
       さらに非言語的構音器官連続運動について麻痺性構音障害群と比較すると,本例は有意に速度が低下した。第18病日の本例の非言語的構音器官連続運動は,単純連続運動では問題はなかったが,複雑連続運動で錯行為が観察された。以上から本例の非言語的構音器官運動は,運動パターンが複雑になるほど構音器官の協調性が障害されることがわかった。
  • 安田 清, 三須 直志, 岩本 明子, 中村 哲雄
    2002 年 22 巻 4 号 p. 292-299
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    痴呆症患者の問題行動に対する工学的な支援はほとんど試みられていない。今回,あるアルツハイマー病患者の外出などの日常の問題行動に対して,電子機器による音声指示の有効性を検討した。第1期は ICレコーダーによる自動出力,第2期は ChatBox の手押しによる好機嫌時の随時出力を行った。音声指示は担当 STの声で録音した。その結果,外出行動は消失,服薬などの日常行動の誘導にもよく応じた。趣味活動として描画を指示したが,その月別描画枚数は,音声指示前の 10倍になった。本症例は性格温厚で,医療職などの専門家の指示には応諾するという社会儀礼的な習慣が維持されていた。そのため家人の指示にはなかなか応じなかったが,STの指示には従順に従ったと推察した。痴呆患者に対する電子機器による支援の有効性が示唆された。
  • 宮崎 泰広, 種村 純, 伊藤 慈秀
    2002 年 22 巻 4 号 p. 300-305
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
       正常成人計 26名 (20~30歳,男性 10名・女性 16名) を対象に,純音・震音・複合音の組合せによる非言語音刺激テープを用いて両耳分離聴テストを行い,非言語音認知の大脳側性化に対するアルコール嗅覚刺激による影響を検討した。
       非言語音認知の大脳側性化は,男性では有意に右半球 (左耳) 優位性 (p<0.05) を示したが,女性では右半球優位ながら,有意差は認めなかった。しかしアルコール嗅覚刺激後は,男性・女性とも有意に左半球 (右耳) 優位性 (p<0.05) を示すようになった。
       本実験で,男性・女性とも非言語音認知がアルコール嗅覚刺激により右半球優位から左半球優位に変化したことから,嗅覚刺激は非言語音認知の大脳側性化へ影響を与える可能性があることが示唆された。
  • 志塚 めぐみ, 小嶋 知幸, 加藤 正弘
    2002 年 22 巻 4 号 p. 306-315
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    約10年間で経験した8例の伝導失語症例について報告した。8例における利き手および大脳損傷半球の内訳は,右手利き5例,非右手利き3例,大脳左半球損傷例6例,右半球損傷例2例であった。8症例における病巣の画像所見,言語以外の高次脳機能所見について調査した結果,右手利き左半球損傷例5例における共通病巣は縁上回であり,通常の半球側性を有するヒトにおける音韻の選択・配列機能は左縁上回に局在していると考えられた。一方,変則的な半球側性が疑われる非右手利き症例の場合,言語情報処理過程の中で音韻の選択・配列にかかわる機能のみが独立して一側の半球に局在する場合のあることが示唆された。また,全例に口部顔面失行を認めたことから,流暢型失語に伴う高次口部顔面動作と音韻の選択・配列機能は,大脳における局在という点で親和性が高いことが示唆された。
  • 阿部 晶子, 遠藤 邦彦, 平林 順子, 柳 治雄, 大木 弘行, 市川 英彦
    2002 年 22 巻 4 号 p. 316-326
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,失語症例の言語音の識別能力の低下が,どうして起こっているのかを明らかにすることを目的とした。対象は,左半球損傷の失語症8例と健常者15名であった。検査刺激には,フォルマントの遷移部 (子音・母音移行部) の持続時間を一定間隔で変化させて作成した,/ba/から /wa/にいたる 10種類の合成言語音を用いた。その結果,失語症例の多くは,右耳で合成言語音を聞いた場合,遷移部の持続時間の変化を,/ba/から /wa/への変化として認識することが困難であることが示された。すなわち,失語症例では,構音方法 (破裂音か,わたり音か) の識別能力が低下していることが明らかになった。失語症例の,右耳での言語音の識別能力の低下をもたらす要因のひとつは,音の分離能力の障害である可能性が示唆された。それと同時に,音韻記憶にもとづいたカテゴリー分類能力の障害も関与している可能性が推察された。
  • 飯干 紀代子, 浜田 博文, 白浜 育子, 相星 さゆり, 猪鹿倉 武
    2002 年 22 巻 4 号 p. 327-334
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    入院中のアルツハイマー型痴呆患者4例に日常生活上の問題点に即した領域特異的な記憶訓練を実施した。訓練内容は,リハビリテーションスタッフの名前,現住所,日付,スケジュール,日課遂行の5項目である。4ヵ月の訓練後,MMS や HDS-R,Wechsler Memory Scale 改訂版やリバーミード行動記憶検査スコアでは著変はみられなかった。各記憶課題の正答率は,人名や場所の記憶は明らかに改善したが,日付,スケジュール,日課遂行の記憶は改善しなかった。今回効果のみられた人名や場所の記憶という固定的で意味記憶的要素を持った課題は積極的な記憶訓練対象になり得ると考えられた。他方,日付,スケジュール,日課遂行という時間的要因を含んだエピソード記憶的要素を持った課題は改善の可能性が低く,訓練よりも環境整備などで生活を支えていくことが望ましいと思われた。加えて,痴呆患者の記憶訓練を継続させるためには,情動面への配慮も重要であるという印象を持った。
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