失語症研究
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原著
発語失行を伴わない “Broca失語” 症例
吉野 眞理子河村 満白野 明
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1995 年 15 巻 4 号 p. 291-298

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抄録

発語失行を伴わない “Broca失語” 症例を報告した。症例は41歳の右利き男性。脳梗塞による失語,右片麻痺で発症。MRI による病巣は Broca 野皮質下を含み後方に進展していたが,中心前回下部皮質は保たれていた。臨床症状は,発語失行を伴わないことを除いてボストン学派の定義による Broca 失語に一致した。「モーラ抽出能力検査」と「失語症2音節語検査」に表れた音韻論的レベルの障害も「失語症構文検査」における統語論的理解・産生障害も Jakobson (1963, 1966)の結合および継起性障害を示唆するものであり, Jakobson の言語学的分類では Broca 失語に相当した。後者は Broca 失語を「統語情報に関する言語能力の障害」としたBerndtら (1980) によるBroca失語の定義とも一致した。発語失行を伴わない Broca 失語症例の存在は,純粋発語失行症例の存在と合わせて,いわゆるBroca失語を構成する発話障害と言語学的レベルの障害との “二重乖離” を証明するものと考えられた。

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© 1995 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会)
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