抄録
健常成人における物忘れの自覚と記憶力検査の結果は必ずしも一致しないことが指摘されている。われわれはその不一致の要因として強迫者の認知特性に着目し,脳ドックを受診した健常成人90名 (33~87歳,平均60歳) を対象として記憶自己評価および記憶情動尺度と言語性記憶を主体とする岡部式簡易知的評価尺度,Leyton の強迫症状得点について検討した。さらにこれらに影響を与える可能性のあるうつ状態についても検討した。その結果,記憶自己評価尺度,記憶情動尺度ともに年齢や岡部スコアとは有意な相関を認めなかった。記憶情動尺度は SDS と弱い相関を示したが,記憶自己評価尺度と SDS は相関しなかった。一方,記憶自己評価尺度と記憶情動尺度は強迫症状得点と有意な相関を認めた。以上の結果から,健常成人において健忘の自覚の程度と実際の記憶力減退が一致しない場合,その要因として強迫性の高さが関与していると考えた。