抄録
本研究では失語症者の語用能力のうち,話し手と聞き手の役割の理解が保たれているかどうか,文脈 (context) が異なると発話行動および nonverbal な行動パターンが異なるかについて検討した。対象は重度失語症者4名,中等度・軽度失語症者4名,および年齢・性別・教育歴をマッチさせた健常者4名であった。方法は,著者との自由会話場面・課題場面をビデオ録画し,両者の発話行動,および視線方向,身ぶり,表情といった nonverbal な行動の項目を1秒間のインターバル記録法にて各場面から5分間を評価した。その結果,失語症者は話し手と聞き手の役割は健常者と同じパターンで遂行可能だが,行動量は健常者よりも少ないこと,自由会話場面と課題場面では,発話行動や視線方向,身ぶり,表情の変化の様相がかなり異なることが明らかとなった。また,ビデオを用いた行動観察法が重度の患者の評価に有用であることが示唆された。