抄録
本研究の目的は,1 Wernicke 症例における錯読の経時的変化を質的側面から検討することにある。訓練時の漢字単語の音読の誤りを,発症後約6ヵ月時,約12ヵ月時,約20ヵ月時の3時点から70語ずつ選択し比較した。その結果,本症例は,1年3ヵ月にわたり,SLTA 上,漢字単語の音読成績に変化が認められなかったが,訓練時の漢字単語の音読では,発症からの経過が長くなるにつれ,新造語的錯読と語性錯読の誤反応中に占める割合が徐々に減少し,字性錯読および字性錯読とも語性錯読とも解釈できる誤りが増加した。語性錯読では,意味的関連のない語の占める割合が徐々に減少し,意味的関連のある語の占める割合が増加した。SLTA 上,音読成績に量的変化は示さない場合でも,誤反応パターンの経時的変化を分析することにより,質的な改善傾向を把握することができると思われた。また,量的変化とともに質的な変化を把握することの重要性が示唆された。