抄録
左被殻に病変の主座を持ち,失語と構音障害を呈した3症例を経験した。3症例の症状は類似し,いずれも病初期に軽度の失語症状がみられたが1ヵ月以降の慢性期には消失し,構音の障害は病初期からみられ,その後も持続した。構音障害の特徴は自発話においては構音の歪みと韻律 (prosody) の障害が,課題発話の diadochokinesis では3音節の繰り返しが拙劣であった。しかし,復唱,音読で特に拙劣さが目立つことはなく,自発話と復唱および音読とに症状の乖離はみられなかった。この特徴は偽性球麻痺性構音障害,一側性錐体路の障害による麻痺性構音障害,脊髄小脳変性症による構音障害とは異なり,さらに Parkinson病,舞踏病,Wilson病などの両側錐体外路系に障害を持つ疾患で生ずる構音の障害とも異なっていた。3例の構音障害は左被殻周辺の病変に起因するものと考えられ,金子 (1989) らの左被殻病変例と類似し,失構音とは詳細には異なった特徴を有した。