抄録
症例は 55歳,右利き,男性。緘黙および右下肢脱力にて発症。慢性期の言語療法を目的として当科に入院した。右手を患側とする両手間の抗争,右手の病的把握現象および超皮質性運動性失語を認めた。MRI では左帯状回前部深部白質および脳梁全域に,非連続的な斑状の病巣を,脳血管撮影では左内頸動脈の閉塞および右内頸動脈から前交通動脈を,脳底動脈から左後交通動脈をそれぞれ介した側副血行路を認めた。SPECT では左内頸動脈領域の血流低下を認めた。本例と同様の症候および臨床経過を示す症例は,ほかに4例が報告されている。いずれも右利き者における左前大脳動脈領域の梗塞によるものであり,臨床経過が酷似していることから,右手を患側とする両手間の抗争および超皮質性運動性失語を特徴とする1つの症候群としてとらえることが可能と考えられた。