抄録
症例は右利き男性。60歳時より相貌失認にて発症。その後,緩徐に進行する物体失認,画像失認,大脳性色盲などの視覚失認および左半側空間失認,精神性注視麻痺,視覚性注意障害などの視空間失認を呈した。図形の模写やマッチングが困難であったことより,視覚失認は統覚型であった。その一方で,末期に至るまで記銘力障害,失語症,痴呆症は顕在化しなかった。画像的には,右半球優位の大脳萎縮,血流低下,代謝低下を認めた。以上の臨床経過および画像所見から,posterior cortical atrophy の1例であると考えた。神経心理学的な注目点は以下の2点である。 (1) 統覚型視覚失認の発現に視空間失認が大きく関与していたこと。 (2) 著しい視覚失認,視空間失認の存在にもかかわらず,人や物にぶつかることなく歩行が可能であったことであった。