CT や MRI といった非侵襲的な脳の画像診断法の開発によって,病巣と欠落機能との対応が容易となり,おそらくは旧人の時代に獲得したと思われる,ヒトの言語機能についての神経科学的研究は,急速に進歩した。さらに,PETスキャンや fMRI のような優れた機能画像法が開発されるようになってくると,健常者が営む高次大脳機能の場を,直接観察することができるようになり,これによって古典的な言語領域の部位やその機能が再確認されたり,あるいは修正されたりしてきている。これらの研究方法は互いに相補的なものであり,互いに矛盾を生じないような結果が得られた場合にのみ,得られた機能地図は意義を有する。このような方向の研究の中で最近注目されているのは,語彙の座と,読み書きの神経機構である。前者としては左側頭葉下部が,後者としては左側頭葉後下部と左後頭葉外側部が取り上げられてきており,従来からの言語領域の周囲に位置するこれらの領域が,言語機能において重要な役割を果たすことが明らかにされてきた。