抄録
右側頭葉後下部損傷により漢字に選択的な失読失書を呈した 73歳,右利きの男性例を報告した。本例で同時に認められた呼称障害と漢字失読との関連性について検討した。聴理解は良好であり,自発話における喚語は保たれていた。呼称では,視覚および触覚モダリティを介しては不良であったが,環境音からの呼称は良好であり,モダリティにより差が認められた。漢字の読みの検討では,音読の障害は高度であり,また読解も重篤に障害されていた。しかし,読みから漢字を選択・指示することは良好であり,方略により文字心像にアクセスは可能で,失象徴型の失読失書例とは異なった。通常の読みの経路では,漢字の適切な語/形態素 (音形・意味) を喚起できないが,視覚入力以外から漢字の読み (音形・意味) にアクセス可能であった。漢字失読と呼称障害の関係について意見を述べた。