摂食・嚥下過程の先行期・準備期は高次脳機能に大きく影響されている。この2期が障害されると後続の口腔期・咽頭期・食道期にも負担を生じる。すなわち高次脳機能障害は嚥下障害を惹起あるいは増悪する要因となりうる。高次脳機能障害により,嚥下訓練も制限され,阻害される。高次脳機能障害を合併する嚥下障害症例に対しては,訓練法の選定と工夫,環境整備,監視・介助の強化をもって対応する。
適切な対応を行うには,患者の嚥下機能と高次脳機能を共に正確に評価し,アプローチできる人材が必要である。かねて高次脳機能障害のリハビリテーションに参加してきた言語聴覚士は,嚥下障害のリハビリテーションにも積極的に携わる必然性がある。「嚥下訓練」は言語聴覚士にとって決して派生的・付加的な業務ではなく,高次脳機能障害と口腔・咽頭・喉頭の運動障害についての知識・技能を統合し,応用・発展させる場である。
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