失語症研究
Online ISSN : 1880-6716
Print ISSN : 0285-9513
ISSN-L : 0285-9513
原著
二方向性障害を持つ健忘失語の一例
脇阪 圭子山鳥 重遠藤 美岐
著者情報
ジャーナル フリー

1987 年 7 巻 4 号 p. 307-312

詳細
抄録

    語の理解障害を伴なった anomia の一例について報告した.症状は,一年以上にわたって安定したものであった.患者は63才,右利き,左側頭葉出血で発症し Wernicke 失語を生じたが,次第に軽快し,発症一年後には以下の特徴を残すのみとなった.(1) 自発語における喚語困難,(2) カテゴリー間で差の明らかでない呼称障害,(3) 語の理解の障害もカテゴリー間で差はなかったが,意味的に似通った語との間で混乱がみられた,(4) 呼称を誤る語と理解できない語は,テスト場面で一定でなかった.
    本例の選択的な語の操作の障害について,(i) 語の semantic memory 構造の崩壊, (ii) word store への接近過程での障害,の二つの発症メカニズムが考えられた.
    また,語彙と統語の操作は,ある程度分離可能な心理過程てあり,語の操作障害は左側頭葉病巣と何らかの関連性を持つことが示唆された.

著者関連情報
© 1987 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会)
前の記事 次の記事
feedback
Top