2026 年 37 巻 2 号 p. 35-45
ペプチド結合は、ペプチドやタンパク質の構造・物性・機能を規定する一方で、生理活性ペプチドの医薬応用におけるボトルネックでもある。この課題を克服するため、ペプチド主鎖を標的とした分子設計が展開されている。
アルケン型ペプチド結合等価体(alkene dipeptide isostere、ADI)は、ペプチド結合を炭素–炭素二重結合へ置換した非加水分解性バイオイソスターである。最も単純な (E)-アルケン型(EADI)に加え、カルボニル酸素等価体としてハロゲンを導入したフルオロアルケン型(FADI)やクロロアルケン型(CADI)、さらにメチル基を導入したメチルアルケン型(MADI)などが開発され、様々な生理活性ペプチドへ応用されてきた。
これらのADIを基盤として、我々はペプチドの高度化研究を展開してきた。これらの研究を通じて、ADIが非加水分解性バイオイソスターにとどまらず、ペプチドの構造・物性・機能を設計するための分子プラットフォームとして利用できることが明らかになりつつある。
本稿では、このようなペプチド主鎖の機能設計という観点から、ADIの分子設計とその応用について概説する。まず、カルボニル酸素等価体の電子的・立体的特性を利用した局所構造制御について紹介し、続いて、ADIの新たな応用展開として、細胞膜透過性の向上、自己分解の抑制、酵素認識の回避など、ペプチド主鎖の機能設計への展開について述べる。さらに、CADIの塩素原子が有する異方的な電子分布に着目したC5水素結合ミミックという新たな研究の方向性についても紹介する。