抄録
このたび、『APU Journal of Language Research(APLJ)』第11 号を刊行できますことを大変嬉しく思います。
本号は、立命館アジア太平洋大学(APU)創立25 周年という節目の年に編纂されたものであり、本学が
2000 年4 月に開学して以来の重要な節目を示すものでもあります。現在のAPLJの形態は、2016 年7 月に刊
行された創刊号から始まりました。
本号における特徴的な試みの一つは、新たな論文種別としてシステマティック・レビューを導入した点で
す。本号にはその初の試みとして2 本の論文を掲載しています。この新しいカテゴリーの導入は、特に授業
実践やカリキュラム開発に関連する専門研究文献の精読・統合・分析を促進することを目的としています。
同時に、システマティック・レビューには、叙述的統合からより形式化された方法論まで、多様な形態が存
在することも認識しています。本分野は本誌にとって新たな方向性であり、本号に掲載された論文群は、今
後の発展に向けた重要な初期的貢献であると考えています。
より広い観点から見ると、APLJは実証研究、授業実践研究、実践志向型研究など、多様な研究アプロー
チを引き続き支援しています。本誌は、言語教育実践と学術的省察・分析を結びつける研究成果を共有する
場となることを目指しています。
本号には英語論文4 本、日本語論文3 本の計7 本の論文が収録されており、APUにおける言語教育研究の
多言語性および学際性を反映しています。
最初の論文では、Berger Maiko氏とManabe Shoichi氏が、大学のEnglish as a Foreign Language(EFL)の授業
におけるUniversal Design for Learning(UDL)の実践について、混合研究法を用いて検討しています。本研
究は、近年APU言語教育センター内で高まりを見せるUDLへの関心を反映するとともに、言語教育におけ
るインクルーシブな授業設計研究の発展に寄与するものです。本論文は、学習者の多様性、授業アクセシビ
リティ、インクルーシブ教育実践に関心を持つ教育者・研究者にとって有益な内容となっています。
2本目の論文では、Fukukawa Misa 氏とKokubo Yusuke 氏が、インフォーマル言語学習に関する日本語論文
約200 本および英語論文約3,000 本を対象としたシステマティック・レビューを報告しています。方法論的
観点から、本論文は日本語・英語双方の研究文献を扱う文献レビューを実施する、あるいは実施しようとす
る研究者にとって関心深いものとなるでしょう。さらに本研究は、方法論にとどまらず、日本国内外の教師
研究者に対して重要な示唆と可能性を提示しています。
次の論文では、Giacomelli Joely氏とArmstrong Luke 氏が、2 年間にわたって実施した創作ライティング・ワー
クショップについて報告しています。本研究では、生成AI(GPTs)を用いて、第二言語学習者が短編小説
のジャンル分析および変換を行う実践を検討しています。学習者アンケートを通じて、AI 支援型創作活動
への学習者の関わり方を分析しており、第二言語文学、文体論、および生成AIを活用した言語教育研究の
発展に寄与する内容となっています。
英語論文最後の論文では、Crowley Kevin 氏が、語彙文法的アプローチに関する実証研究およびメタ分析
を統合した研究レビューを提示しています。本論文は、相互に関連する4 つの研究課題を軸として、およそ
20 本の研究成果を整理・統合し、言語教育における語彙文法発達の役割について一貫した視点を提示して
います。さらに本研究は、専門研究文献への継続的な関与が、教師の信念、教育的優先事項、言語プログラ
ム設計の洗練にどのように寄与しうるかを示しています。
続く日本語論文3本は、中国語学・日本語学および言語教育に関するテーマを扱っており、本誌の多言語的・
学際的な特徴をさらに示しています。
羅華氏による論文は、これまであまり注目されることのなかった中国語接続詞「然后(ránhòu)」に焦点
を当てています。先行研究を踏まえつつ、教育現場で収集されたデータをもとに中国語学習者の誤用傾向を
分析し、それに基づく指導法を提案しています。また、本研究は、近年話し言葉において中国語母語話者に
見られる、本来の“ 然后” の用法とは異なる拡張的用法と、中国語学習者の誤用との関連性を考察している
点でも、今後の中国語教育への発展的示唆を含む重要な研究であるといえます。
周振氏の研究は、中国語の持続相標識「着(zhe)」の意味・用法について、「状況アスペクト」と「視点
アスペクト」から成る二層的理論枠組みに基づき再検討を行っています。本研究は、telicity(終結性)と
boundedness(境界性)の区別を明確化し、多様な状況タイプとの共起関係を分析することで、「着」が基本的・
派生的レベルの双方において境界性を持つ状況と共起可能であり、特定条件下では状態終了を含意しうるこ
とを示しています。本論文は、中国語アスペクト教育に新たな理論的基盤を提供するとともに、学習者発達
段階に応じた体系的指導への貢献が期待されます。
山田祐也氏の論文は、日本語動詞「やめる」の意味機能を再検討しています。中国語では、「やめる」が「不
~了」と訳される場合とそうでない場合が存在します。本研究では、この違いと南の従属節階層モデルを基
盤として、「やめる」の意味機能に関する従来の説明を拡張しようと試みています。また、日本語では「や
める」によって行為の停止と一時的中断の双方を表現できますが、中国語では異なる表現が必要となります。
本論文は、その理由を話者の視点から分析しています。
これらの日本語論文は総じて、APLJが対象とする多様な言語教育文脈において、理論的知見に基づいた
教育実践研究が重要であることを改めて示しています。
最後に、第12 号に向けて、APLJは授業観察、交流型授業、チームティーチングなど、協働的な言語教育
実践に焦点を当てた、より短い共同ケーススタディ論文の掲載へと対象範囲を拡大する予定です。
編集委員長 セヴィニー ポール